著者
麦 文彪
出版者
日本印度学仏教学会
雑誌
印度學佛教學研究 (ISSN:00194344)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.1114-1119, 2020

<p>紀元前後のものとされる<i>Gārgīyajyotiṣa</i>は,64章からなるサンスクリット語の著作であり,インド天文史の中で最も古い現存資料の一つと見なされている.Karmaguṇaと名付けられた第1章では,ティティ,ナクシャトラ,ムフールタ,カラナという四つの天文単位に関する知識が述べられている.この知識はVṛddhagargaに帰され,第2章以降の内容と異なり,のちのGargaの作品よりさらに古い年代に属すると考えられる.ムフールタは時間の単位として1日の30分の1を意味し,概念としてはティティ(朔望月の30分の1)に類するものである.本論文では,この章におけるムフールタ,ティティそしてナクシャトラの体系を,漢訳仏典に残されているインド天文学に関する記述と比較する.それによって,かつて基本的な知識としてインド中に広く行き渡り,インド以外の地域にも大きな影響を与えた天文資料の共通の核が明らかとなる.しかしそれは,紀元後5世紀頃には,惑星運動とホロスコープによって特徴づけられたギリシャインド系天文学にとって代わられた.本論文は,<i>Gārgīyajyotiṣa</i>におけるムフールタに関する諸説について分析し,初期インドにおける天文学資料の中の位置づけを試みた.</p>