- 著者
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麻生 良文
- 出版者
- 岩波書店
- 雑誌
- 経済研究 (ISSN:00229733)
- 巻号頁・発行日
- vol.51, no.2, pp.152-161, 2000-04
この論文では厚生省が1997年に発表した「5つの選択肢」および1999年度改正案がどのような所得移転をもたらすのかを分析した.分析の結果,次のことが明らかになった.まず,(1)5つの選択肢のどの案が採用されるかで大きな影響を受ける二つのグループが存在する.一つは1980年生まれ以降の世代(将来世代)であり,もう一つのグループは1940年から1970年生まれの世代(移行期世代)である.(2)将来世代にとっては A 案(現状の給付水準を維持する案)がもっとも不利で,D 案(給付水準を4割削減する案)が有利である.しかし,移行期の世代にとっては A 案が有利で D 案は不利である.(3)厚生年金の1999年度改正案は C 案とほぼ等しい内容である.この案のもとで,負担と給付が均衡する世代は1960年生まれの世代であり,それ以降の世代は負担が給付を上回っている.将来世代とっては生涯所得の10%程度が厚生年金を通じて取り上げられている.(4)厚生年金制度は労働供給に対して暗黙の課税を行っているが,暗黙の税率は将来世代ほど大きい.(5)国民年金の所得移転は厚生年金に比べれば小さいが,やはり世代間格差が存在する.負担と給付がほぼ均衡するのは1975年生まれの世代であり,それ以降の世代は負担超過である.将来世代の負担は夫婦合計で生涯所得の3%程度である.