著者
黄 信者
出版者
心の科学の基礎論研究会
雑誌
こころの科学とエピステモロジー (ISSN:24362131)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.18-32, 2022-06-05 (Released:2022-06-05)

本論は日本大正期の雑誌『変態心理』の分析を通して、1990年代から非西洋文化の中でみられるようになった新しい心理学の形式Indigenous Psychology(IP)を検討することを目的とする。方法としては、心理学史の視座を用いて、『変態心理』の復刻版(全34巻)を主要研究資料とし、現在のIPで言う「土着の概念・知識」と関わる文献を抽出して分析を行った。その結果、『変態心理』は「土着の概念・知識」と、それを内包する民間精神療法・心霊現象を研究対象にしていることがわかった。また時期によって論じ方が変わる傾向がみられた。抽出した論文をみると、対象だけでなく方法も、現在のIP研究と合致していることが少なくない。つまり、現在のIPの視点を取り入れながら『変態心理』を分析すると、当雑誌の心理学史における位置づけを再評価できるかもしれない。しかし、筆者の分析では、『変態心理』における「土着の概念・知識」の解釈と議論は不十分であり、特に具体的な身体経験への関心が不足している。それは同時に現在のIP研究への啓示ともいえる。