著者
黄 嵩凱
出版者
東京理科大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本研究では中央トルコ地域と日本全国約3000ヵ所から採取した自然堆積物に含まれている様々な重鉱物の種類と化学組成を分析し、その情報を産地の情報と結びつけることで考古学と法科学分野試料の起源推定へ応用した。すなわち、試料の重鉱物組成情報からその試料の地質起源を推定し、古代社会の交易の解明や、土を証拠資料とする科学捜査のためのデータベースの構築を目的とした。一方、重鉱物組成による起源推定の結果の検証とその結果を支持できる別次元のデータを得るために、試料中に含まれている特定重鉱物種の化学組成分析あるいはバルク試料の微量重元素組成分析も行った。本論文で同定された重鉱物の種類は20種以上あり、分析数は約5万粒を越え、得られた重鉱物の情報は研究対象とした地域の地質学や地球化学などの分野の研究に対しても重要なデータとなっている。考古学の研究ではSEM-EDSとEPMAによる古代土器の重鉱物分析及び単一鉱物の地球化学分析を行い、各試料中の重鉱物組成及び角閃石の化学組成のデータから如何にそれらの試料の地質起源を高精度に推定ができるかを示した。そして、法科学の研究では新しく開発した最先端の分析技術である全自動放射光粉末X線回折システム(SR-XRD)を重鉱物の分析に応用し、犯罪捜査で被害者の靴や車両などについた微量の土砂から事件に関係する場所を特定するための日本全国の重鉱物データベースの開発を目指した。さらに、高エネルギー放射光蛍光X線分析(HE-SR-XRF)による試料に含まれる微量重元素の組成情報による試料の特性化法も新しく開発した。本研究により、古代土器の重鉱物による産地推定の新たな手法と法科学土砂データベース開発を可能にする新規放射光利用分析技術を確立することができた。