著者
黒井 伊作
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.301-306, 1985
被引用文献数
5 11

ブドウ'巨峰'のガラス室栽植樹並びに1芽挿しを用い, 石灰窒素 (CaCN<sub>2</sub>として55%含有) の20%温水浸出液及びH<sub>2</sub>CN<sub>2</sub>塗布処理が芽の休眠打破に及ぼす効果を試験した.<br>CaCN<sub>2</sub>をカラス室栽植樹に塗布した春先の発芽状況は12月, 1月, 2月の各処理区で, それぞれ16日, 9日, 5日の発芽促進となり, 休眠の深い時期の処理で発芽促進効果が高く, これまでの実験結果と一致した. 3% H<sub>2</sub>CN<sub>2</sub>処理区では同じ時期の処理で, それぞれ15日, 7日, 4日の発芽促進となり, CaCN<sub>2</sub>区と同じ傾向の休眠打破効果が認められた.<br>一方, 切り枝の挿し木実験では, 12月中の置床でCaCN<sub>2</sub>並びに0.5%及び1% H<sub>2</sub>CN<sub>2</sub>処理区は2~4日の発芽促進であった. 挿し木における発芽促進程度は栽植樹に比較してはるかに低く, また, 挿し木では2% H<sub>2</sub>CN<sub>2</sub>以上の濃度では薬害による枯死芽がみられ, 有効濃度は栽植樹の1/3~1/6でよかった. これらのことは, 切り枝による強い創傷効果が休眠を浅くしたためと考えられた.切り枝の休眠を完了した2月下旬では, CaCN<sub>2</sub>及び1%H<sub>2</sub>CN<sub>2</sub>処理区においても薬害が発生した.<br>本実験の結果からH<sub>2</sub>CN<sub>2</sub>はブドウ'巨峰'の休眠打破にCaCN<sub>2</sub>と同様な効果があった. このことは石灰窒素水浸出液の休眠打破作用の主体が, CaCN<sub>2</sub>の部分的加水分解によって活性型のH<sub>2</sub>NCNを生じ, cyanide ion(CN<sup>-</sup>)として作用することを示唆する.