- 著者
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黒岩 直
- 出版者
- 新潟産業大学経済学部
- 雑誌
- 新潟産業大学経済学部紀要 (ISSN:13411551)
- 巻号頁・発行日
- no.57, pp.19-28, 2021-01
本稿では、拙稿(2014)で扱った枠組においてワルラス法則がどのように表現されるかを検討し、その含意や解釈を考察する。拙稿(2014)ではデフレ・スパイラルや流動性のわなが一種の均衡として表現されており、本稿ではそのモデルをもとに、経済主体の予算制約からワルラス恒等式を導き、それらから⑴ 財市場均衡・完全雇用状態、⑵ デフレ・スパイラル均衡、および⑶ ケインズ派均衡の三つを特徴付ける。とくにデフレ・スパイラル均衡では、財市場(または労働市場)の超過供給が、貯蓄・投資の不均衡(過剰貯蓄)に対応するという関係が得られる。さらに後半ではデフレ均衡が次の3つの側面から検討される。すなわち①「過剰貯蓄と失業」、②「労働・財貨の超過供給と貨幣の関係」、および③「市場の機能不全」である。これらの論点は全て貨幣の性質と関係している。特に③については、流動性のわなの場合、市場メカニズムすなわち価格・賃金の伸縮性によって、かえって経済が不安定化することが示される。それゆえ、逆に価格・賃金の粘着性が体系にとって必要な要素として浮かび上がる。全体的にみれば、貨幣の性質に着目したとき、ワルラス法則がそれぞれの財について独立性の高い形で定式化されること、また、労働市場では失業の解消が困難になることが、本稿の検討から導かれる。