- 著者
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黒澤 幸弘
高橋 かおり
伊藤 廉
河辺 信秀
- 出版者
- JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
- 雑誌
- 日本理学療法学術大会
- 巻号頁・発行日
- vol.2012, pp.48100682-48100682, 2013
【目的】医療系養成校における臨床実習は,もっとも心理的ストレスが加わるカリキュラムである.先行研究では,看護師の臨床実習中の新版State Trait Anxiety Inventory(以下STAI)の状態不安が高いことが報告されている.理学療法士の臨床実習では,実習中のストレス強度と短い睡眠時間に関連がみられたとする報告がある.このような心理的不安は実習自体の中断につながりかねない.一方で,心理的不安を軽減させる方法に有酸素運動がある.竹中らは, 心理的不安の高い学生に対する有酸素運動がProfile of Mood States(以下POMSとする)の緊張および鬱の得点を減少させたとしている.これらを踏まえ,本研究では臨床実習前の不安が高い理学療法学科学生に対して有酸素運動を行い,臨床実習に対する不安の軽減が可能であるか明確にするために研究を行った.【方法】対象は本学第4学年第3期臨床実習(7週間)前の14名であった.全例精神科への通院歴がなかった.2週間の有酸素運動への参加意志を確認し,積極的に同意した7名をAE群に,同意なしや消極的であった7名をNA群とした.AE群,NA群共に男性6名,女性1名であり,年齢は24.3±4.1歳,22.3±2.6歳であった.実習開始2週間前に全例でSTAIとPOMSを実施した.STAIは特性不安と状態不安における不安存在項目,不安不在項目,合計を得点化した.POMSは「緊張-不安」「抑うつ-落込み」「怒り-敵意」「活気 」「疲労」「混乱」の各尺度を測定した.AE群の運動内容はベンチステップエクササイズ,縄跳び,反復横跳びを各5分とし15分間行った.これを2セット30分間実施した.運動強度はV(dot)O<sub>2</sub>max60%とし,脈拍数とBorg scale を用いて管理した.運動は実習開始2週間前からの2週間で,週3回,計6回実施した.NA群は運動介入なしとした.介入終了後,実習開始2日前,実習開始21日目,実習終了2日後にSTAIとPOMSを測定した.統計解析は2群間の比較では対応のないt検定,各時期の比較ではScheffeの多重比較を用いた. 【説明と同意】研究目的,方法,個人情報保護に関して口頭にて説明し同意を得た.【結果】2群間の比較において,実習開始2週間前ではすべての項目に差がなかった.実習開始21日目には,STAI特性不安および状態不安の不安不在項目得点,合計点でNA群よりAE群で有意に不安が軽減していた(28.9±4.4 vs 19.4±6.9, 29.1±2.1 vs 19.1±6.3, 49.0±6.6 vs 39.4±8.5;P<0.05).AE群における各時期の比較では,STAI特性不安および状態不安の不安不在項目得点で実習開始2日前と比べて実習開始21日目に有意な不安の軽減がみられた(28.3±4.9 vs 19.4±6.9, 27.7±4.6 vs 19.1±6.3;P<0.05).STAI状態不安の不安存在項目で実習開始2週間前および実習開始21日目と比較して実習終了2日後に有意な不安の軽減がみられた(20.0±2.7 vs 15.9±4.3,20.3±6.3 vs 15.9±4.3;P<0.05).POMSの緊張-不安得点では実習開始21日目と比較して実習終了2日後に有意な不安の軽減がみられた(15.7±8.1 vs 9.4±8.3;P<0.05).NA群の各時期の比較では差がなかった.【考察】本研究では,心理的ストレスが高いと予測される実習開始21日目に,NA群と比較してAE群で不安の軽減がみられた.AE群では実習開始2日前と比較して実習開始21日目に不安不在項目得点が減少し,実習終了後にも不安の軽減がみられた.NA群では心理的不安の変化がみられなかったことから,臨床実習前の有酸素運動によって臨床実習に対する心理的不安が軽減したと推測できる.NA群と比較してAE群は,ポジティブな情動の変化を捉えるSTAIの不安不在項目得点が低下していたことから,臨床実習を前向きに捉えることができていたといえる.このように有酸素運動が臨床実習での心理的不安を減少させるならば,積極的に臨床実習に望む学生にストレスマネージメントとして有酸素運動を実施すべきであろう.今後は,臨床実習中の運動実施による不安軽減効果の確認が必要であろう.【理学療法学研究としての意義】本研究では,有酸素運動が臨床実習中の心理的不安を軽減する可能性が示唆された.理学療法教育における臨床実習の課題である学生のストレスマネージメントの構築に寄与する研究であると考えられる.