- 著者
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黒田 啓子
- 出版者
- 千葉大学
- 雑誌
- 千葉医学雑誌 (ISSN:03035476)
- 巻号頁・発行日
- vol.65, no.2, pp.67-74, 1989
古来,中国並びに本邦では,十字花科植物なずなは薬用植物として食されまたは利用されてきたが,その成分や薬理効果についての研究は,今世紀の初め,若干行われたにすぎない。我々の研究から,その抽出物が子宮収縮作用,抗胃潰瘍,抗炎症作用等いくつかの有用な薬理作用を持つことがわかった。次いで抽出物がマウスにおけるエーリッヒ固型癌の成長を抑制することも見出され,抗癌作用や抗胃潰瘍作用の有効成分としてフマール酸を単離,同定した。有効な抗癌性物質マイトマイシンCは副作用も強いがフマール酸と併用投与することにより,副作用のみが選択的に軽減される。フマール酸は,又,化学物質による発癌,例えば,ニトロフランによる胃癌や肺癌の誘発,アゾ色素やチオアセタミドによる肝癌の誘発を抑制する。これらフマール酸の活性は組織DNA合成を促進してこれら毒物による組織損傷を修復することを助けることに基づくものと考えられる。