著者
寺重 理英子 江草 章仁 長原 啓三 鹿嶌 達哉 齋 礼
出版者
広島国際大学 心理科学部 教職教室
雑誌
広島国際大学 教職教室 教育論叢 (ISSN:18849482)
巻号頁・発行日
no.8, pp.43-61, 2016-12-15

21世紀型知識基盤社会を見据えた現行の学習指導要領に「基礎的・基本的な知識及び技能を確実に習得させ、これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力をはぐくむとともに、主体的に学習に取り組む態度を養い、個性を生かす教育の充実に努めなければならない」と示されている。一方、基礎学力の低下も懸念され、「義務教育段階での学習内容の確実な定着」も明記されている。広島県立豊田高等学校ではこれらを踏まえて、義務教育段階の学習内容の定着と高等学校での学習事項の習得、応用力・判断力・表現力と主体的に学ぶ態度の育成を達成するため、「万葉塾」を開設した。生徒は全員が放課後に、「万葉塾」で個々の状況に応じたICT教材による自律学習を行う。「万葉塾」は、①幅広い学力層に対応しなければならないこと、②小規模で指導者数が少ない上に従来の問題集等による「学び直し」が非効率であること、③学習習慣の確立が不十分な状況が散見されること、④基礎・基本の知識の習得と課題解決型学力を同時に育成しなければならないこと、等の課題のすべてを同時に克服し生徒の学力を高めることを目指して、クラウド型ICT教材「すらら」による自律学習を導入している。その取組結果として、①ICTによる自律学習が、必要な基礎・基本の定着に有効であること、②基礎・基本の知識を応用的した授業の効果をより高めること、③生徒の学習意欲を高めること、④生徒の学習習慣の育成に有効であること等が観察された。また、新たな知見として、⑤ICTによる個別の自律学習には、「人」による指導や生徒同士の協同学習等、「コンピュータを媒介とした人相互の協働」が非常に有効であること、⑥ICT教材への個々の取組が、生徒自らが主体的に学ぶ姿勢を培い、思考力・表現力・判断力を伸ばし、他者と協働して課題解決にあたる能力を育成することが観察された。