著者
八川 慎一 岡田 大爾
出版者
広島国際大学 心理科学部 教職教室
雑誌
広島国際大学 教職教室 教育論叢 (ISSN:18849482)
巻号頁・発行日
no.9, pp.137-146, 2017-12-20

生徒指導提要には,「生徒が抱える課題は一人一人の生徒によって様々であるので,一人一人の生徒の性格,能力などや,さらに生活環境,発達の程度,学校での生活の状況など,一人一人の児童生徒に応じた効果的な生徒指導が必要」と書かれているが,個別の課題を抱える生徒についての変容を促す長期間の継続的・包括的取組みに関する事例研究は少なく,学校現場における長期間の継続的・包括的取組みの目的,方法及び生徒の変容及びその成果と課題について明らかにした。本研究の対象中学校は,各学年10数名の小規模校で中学2年生の課題が大きかった。約3分の1の生徒は,先生によって態度が大きく異なり,厳しく指導すると暴言を吐いたり,気分が悪いと言って保健室へ逃避したりした。担任を中心に指導を重ねるが,しばらくすると再発した。また,小学生の時から喫煙が常習化する数名の生徒は,トイレや更衣室,校外等で喫煙が発覚することもしばしばあった。様々な問題行動を繰り返す生徒たちに,後追いの治療的生徒指導にあたることが続いた。さらに,前年度から関わってきた教師たちの疲弊感と,課題の大きい生徒たちに関わりたくないという思いを強く感じる状況であった。このような実態の中,個別の課題を抱える生徒の変容を促すため,組織的で毅然とした治療的生徒指導をやりきることを継続すること,さらに並行して生徒を多面的,総合的に理解していくことと共に保護者との継続的な連携も重要であるととらえ,家庭訪問等を通して生徒・保護者と関わりきる指導を考え,実践した。さらに,疲弊していた教師たちも一緒に組織的に取り組む中で関わりきる達成感を感じさせるようにした。このような継続的包括的な取組みを通して,生徒・保護者との信頼関係を築き,生徒指導上の課題を解決し,個別の生徒の変容とともに生徒全体の将来における自己実現を図る自己指導能力の育成に効果が見られた。一方,生徒指導体制の小中連携(小学校と中学校の連携)に課題が残った。
著者
鶴田 一郎
出版者
広島国際大学 心理科学部 教職教室
雑誌
広島国際大学 教職教室 教育論叢 (ISSN:18849482)
巻号頁・発行日
no.9, pp.169-178, 2017-12-20

発達障害は、大きく知的障害のグループと自閉症を中核とするグループに分けられる。後者の自閉症を中核とするグループの3/4は知的障害を伴うタイプである。これを単に「自閉症」と呼んだり、提唱者の名前をつけてカナー型自閉症と呼んだりする。一方、自閉症を中核とするグループの残りの1/4は知的障害を伴わない或いは軽い知的障害があるタイプである。知的障害を伴うタイプの発達障害は、通常、特別支援学校(知的障害)や通常学校の特別支援学級(固定式)に所属しているため、一般の教師が担当になることは少ないが、通常学校の通常学級や小中の特別支援学級(通級式:通級指導教室)の担任で問題となるのは、知的障害を伴わない或いは軽い知的障害がある発達障害児である。具体的には、アスペルガー症候群、高機能自閉症、LD(学習障害)、ADHD(注意欠陥/多動性障害)などである。この内、本研究では自閉症を中核とするグループ、すなわち自閉症スペクトラムに焦点を当てる。なお、本稿では、「カナー型自閉症」について、特に「教育心理学」の視点からライフステージ別の状態像を論じた。具体的には、(1)乳幼児期(0歳から6歳くらいまで)[自閉的しぐさと感覚①自閉的視行動、②耳ふさぎ、③全身の動き、④感覚的特徴][対人関係の特徴=対人的相互関係][遊びと言葉①遊び、②興味の限局化、③言葉][心の動き①情動、②パニック・自傷、③同一性保持の傾向]、(2)学童期(6歳から12歳くらいまで)[行動面][言語面][認知面]、(3)思春期・青年期(13歳から18歳くらいまで)[改善されやすい点][改善されにくい点]・(4)成人期以降(18歳以降)[高機能群][中機能群][低機能群]を順次、検討・考察した。
著者
鶴田 一郎
出版者
広島国際大学 教職教室
雑誌
広島国際大学 教職教室 教育論叢 (ISSN:18849482)
巻号頁・発行日
no.10, pp.35-44, 2018-12-20

要旨:本研究では、地下鉄サリン事件被害者の心理をPTSD反応の視点から検討した。その結果、まずPTSD反応は「恐怖」「再体験」「過覚醒」「麻痺」「回避」「罪責感」の六種類に分類できることがわかった。次にPTSD反応(「外傷後ストレス」「トラウマ反応」「喪失反応」)の分析と考察を行った。まず「外傷後ストレス」である「恐怖」を中核とする外傷的体験があったことを前提とする。次に「再体験」で出来事の苦痛に満ちた再現があり、それから「麻痺・回避」し、反応全般を低下させ、その逆に「過覚醒」で過剰に覚醒させる、以上を「トラウマ反応」の三大症状と呼ぶ。更に経過の中で起きてくる「罪責感」は「喪失反応」に含まれる。以上に加えて、PTSD反応を長期化させないために「自責感情」「孤立無援感」「無力感」「不信感」へのケアが不可欠である点を指摘した。
著者
寺重 理英子 江草 章仁 長原 啓三 鹿嶌 達哉 齋 礼
出版者
広島国際大学 心理科学部 教職教室
雑誌
広島国際大学 教職教室 教育論叢 (ISSN:18849482)
巻号頁・発行日
no.8, pp.43-61, 2016-12-15

21世紀型知識基盤社会を見据えた現行の学習指導要領に「基礎的・基本的な知識及び技能を確実に習得させ、これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力をはぐくむとともに、主体的に学習に取り組む態度を養い、個性を生かす教育の充実に努めなければならない」と示されている。一方、基礎学力の低下も懸念され、「義務教育段階での学習内容の確実な定着」も明記されている。広島県立豊田高等学校ではこれらを踏まえて、義務教育段階の学習内容の定着と高等学校での学習事項の習得、応用力・判断力・表現力と主体的に学ぶ態度の育成を達成するため、「万葉塾」を開設した。生徒は全員が放課後に、「万葉塾」で個々の状況に応じたICT教材による自律学習を行う。「万葉塾」は、①幅広い学力層に対応しなければならないこと、②小規模で指導者数が少ない上に従来の問題集等による「学び直し」が非効率であること、③学習習慣の確立が不十分な状況が散見されること、④基礎・基本の知識の習得と課題解決型学力を同時に育成しなければならないこと、等の課題のすべてを同時に克服し生徒の学力を高めることを目指して、クラウド型ICT教材「すらら」による自律学習を導入している。その取組結果として、①ICTによる自律学習が、必要な基礎・基本の定着に有効であること、②基礎・基本の知識を応用的した授業の効果をより高めること、③生徒の学習意欲を高めること、④生徒の学習習慣の育成に有効であること等が観察された。また、新たな知見として、⑤ICTによる個別の自律学習には、「人」による指導や生徒同士の協同学習等、「コンピュータを媒介とした人相互の協働」が非常に有効であること、⑥ICT教材への個々の取組が、生徒自らが主体的に学ぶ姿勢を培い、思考力・表現力・判断力を伸ばし、他者と協働して課題解決にあたる能力を育成することが観察された。