著者
齋藤 ちひろ 五野 日路子
出版者
日本国際地域開発学会
雑誌
開発学研究 = Journal of agricultural development studies (ISSN:09189432)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.54-62, 2019-12

マラウイでは,いまだにフードセキュリティーの未確立が懸念されている。本論文は,南部マラウイの条件の異なる2つの農村において,世帯レベルのフードセキュリティーの実態とその達成に関わる要因を明らかにすることを目的としている。フードセキュリティーには,食料の供給可能性(Availability),経済的・物理的な食料の入手可能性(Accessibility),栄養面でみる食料の利用(以下「栄養性」と略す)(Utilization),およびこれらの長期的な安定性(Stability)の4つの要素がある。これら4つの要素にもとづいた検討結果から,多くの世帯がフードセキュリティーの達成が難しい状態にあり,特に供給可能性と安定性を達成できていないことが明らかとなった。供給可能性の達成には,農業投入財による土地生産性の向上が必要である。また,入手可能性を達成するには農外所得の増大が有益であり,農外経済活動に従事するためには,経済機会へのアクセス面の改善や農村での雇用機会の創出が必要である。このような土地生産性の向上および農外所得源を確保することは,フードセキュリティーの安定性および栄養性の達成においても重要である。さらに,栄養性の達成には十分な所得に加え市場へのアクセスというもう一つの条件が重要であり,それが満たされることで高所得が栄養性の実現に結びつく。