著者
中村 哲也 矢野 佑樹 丸山 敦史
出版者
日本国際地域開発学会
雑誌
開発学研究 = Journal of agricultural development studies (ISSN:09189432)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.27-43, 2018-12

本稿では,ウクライナを事例として,食品内の放射性物質の知識と安全対策を考察し,如何なる階層の市民がその知識や対策を評価しているのか,統計的に分析した。ウクライナは独立後,国内は親露派と親欧派に分離し,現在に至るまで政治経済が混乱している。ウクライナではチェルノブイリ原発事故当時,西欧に比べてテレビや新聞等の報道メディアから得られる情報が乏しかった。チェルノブイリ原発事故を記憶している者は高齢者であるが,チェルノブイリ周辺地域の住民の記憶は,現在でも鮮明であった。ウクライナ人は放射性物質に関するロシア政府の情報公開を信頼し,親露派が多い東部の居住者も信頼している。しかしながら親欧派が多い西部の居住者はロシア政府の情報公開を信頼していない。ウクライナ人は,日本人よりも食品内の放射性物質の知識が高く,ウクライナではチェルノブイリの事故から30年が経過した今でも放射性物質の安全性を確認する者は9割を超えている。ただし,実際に経口的内部被曝に対して対策していない者は6割を超え,放射性物質の安全対策は家庭的な対策が限られていた。しかしながら,放射性物質の規制値を下回る食品が販売されていた場合の支払意志額はスウェーデンよりも高かった。そして,放射性物質の規制値を下回る食品を買う者は,女性や世帯員数が少ない者であったが,所得が低く汚染が広がる西部の居住者は,規制値を下回る割高な食料を購入しなかった。
著者
齋藤 ちひろ 五野 日路子
出版者
日本国際地域開発学会
雑誌
開発学研究 = Journal of agricultural development studies (ISSN:09189432)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.54-62, 2019-12

マラウイでは,いまだにフードセキュリティーの未確立が懸念されている。本論文は,南部マラウイの条件の異なる2つの農村において,世帯レベルのフードセキュリティーの実態とその達成に関わる要因を明らかにすることを目的としている。フードセキュリティーには,食料の供給可能性(Availability),経済的・物理的な食料の入手可能性(Accessibility),栄養面でみる食料の利用(以下「栄養性」と略す)(Utilization),およびこれらの長期的な安定性(Stability)の4つの要素がある。これら4つの要素にもとづいた検討結果から,多くの世帯がフードセキュリティーの達成が難しい状態にあり,特に供給可能性と安定性を達成できていないことが明らかとなった。供給可能性の達成には,農業投入財による土地生産性の向上が必要である。また,入手可能性を達成するには農外所得の増大が有益であり,農外経済活動に従事するためには,経済機会へのアクセス面の改善や農村での雇用機会の創出が必要である。このような土地生産性の向上および農外所得源を確保することは,フードセキュリティーの安定性および栄養性の達成においても重要である。さらに,栄養性の達成には十分な所得に加え市場へのアクセスというもう一つの条件が重要であり,それが満たされることで高所得が栄養性の実現に結びつく。
著者
里見 洋司
出版者
日本国際地域開発学会
雑誌
開発学研究 = Journal of agricultural development studies (ISSN:09189432)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.10-15, 2020-03

現在,世界の普及組織は,縮小合理化され,地域に根付いた活動に取り組み難くなっている。一方,多くの地域住民や組織が地域活性化のために活動している。これらと協働すれば,新たな普及活動が展開出来る。トルコの普及事業は,国から農協に移管され,活動地チャモルックからは撤退していた。私は,農業振興を担当する国の機関で活動した。そこで,農村を巡り,農家と話し,作物の状況を熟知することが重要だと説明した。人間関係が親密なトルコでは,人脈や噂話が大きな力を発揮する。それらを活かして,インゲン豆のブランド化と産地育成を進めた。行政管理者がとりまとめ役,住民が主体者となり,普及活動が展開された結果,地理的認証が国際機関から認定され,インゲン豆の産地拡大が進んでいる。ベトナムでは,農業者が栽培経験を持たない枝豆栽培に取り組んできた。ここでも農業に従事する若者は少なく,労働力確保は難しい。当初,収穫が皆無という経験もした。普及員は試験場に常駐し現場に来ない。しかし,農業法人が確実に育ち,村長や人民委員会が人材を結ぶ役割を果たしている。彼らとの協働の結果,枝豆栽培は,年間145haに達した。Web利用の普及は,農業者と普及職員の情報量の差を消滅させた。しかし,Web情報は,正しいもの,良心に基づくものばかりでない。情報判断にあたり,SNSなどを利用し,気軽に相談が出来て,共に試行に取り組んでくれる普及職員は,重要な存在である。
著者
羽佐田 勝美 小林 慎太郎 丸井 淳一朗
出版者
日本国際地域開発学会
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.65-74, 2019 (Released:2019-12-03)

本稿では,魚発酵食品パデークの需要が増加しているラオス国ビエンチャン特別市を対象に,パデークの流通の現状と課題を検討した。ビエンチャン特別市で最も多く販売されるパデークは伝統的パデークであった。パデークの流通においては,農家がパデークの原料採集,生産,発酵までを,仲買業者がパデークの集荷と出荷(流通)を,小売業者が最終的な調味(加工調製)と消費者への販売(小売)を主に行っていることがわかった。また,パデークの流通形態は仲買業者介在型,仲買業者不在型,農家直売型の3つに分類できることがわかった。各ステークホルダーの粗マージンについては,仲買業者と比べ,農家と小売業者がより高い粗マージンを得ていることが示唆された。さらに,パデーク経営において,農家はパデークの原料である魚の不足(資源の問題)が,仲買業者はパデークの不足(資源の問題),顧客が少ないことや同業者による競争(市場競争の問題)とパデーク仕入れ資金の不足(資金・経費の問題)が,小売業者は投資資金の不足や販売経費の負担が大きいこと(資金・経費の問題)と競争相手が多いこと(市場競争の問題)が,問題であることがわかった。