- 著者
-
里見 洋司
- 出版者
- 日本国際地域開発学会
- 雑誌
- 開発学研究 = Journal of agricultural development studies (ISSN:09189432)
- 巻号頁・発行日
- vol.30, no.3, pp.10-15, 2020-03
現在,世界の普及組織は,縮小合理化され,地域に根付いた活動に取り組み難くなっている。一方,多くの地域住民や組織が地域活性化のために活動している。これらと協働すれば,新たな普及活動が展開出来る。トルコの普及事業は,国から農協に移管され,活動地チャモルックからは撤退していた。私は,農業振興を担当する国の機関で活動した。そこで,農村を巡り,農家と話し,作物の状況を熟知することが重要だと説明した。人間関係が親密なトルコでは,人脈や噂話が大きな力を発揮する。それらを活かして,インゲン豆のブランド化と産地育成を進めた。行政管理者がとりまとめ役,住民が主体者となり,普及活動が展開された結果,地理的認証が国際機関から認定され,インゲン豆の産地拡大が進んでいる。ベトナムでは,農業者が栽培経験を持たない枝豆栽培に取り組んできた。ここでも農業に従事する若者は少なく,労働力確保は難しい。当初,収穫が皆無という経験もした。普及員は試験場に常駐し現場に来ない。しかし,農業法人が確実に育ち,村長や人民委員会が人材を結ぶ役割を果たしている。彼らとの協働の結果,枝豆栽培は,年間145haに達した。Web利用の普及は,農業者と普及職員の情報量の差を消滅させた。しかし,Web情報は,正しいもの,良心に基づくものばかりでない。情報判断にあたり,SNSなどを利用し,気軽に相談が出来て,共に試行に取り組んでくれる普及職員は,重要な存在である。