著者
齋藤 央嗣
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.99, no.4, pp.150-155, 2017-08-01 (Released:2017-10-01)
参考文献数
43
被引用文献数
2

ヒノキの花粉症対策のため,雄性不稔個体の探索を行った。神奈川県内のヒノキ林を探索した結果,雄花から花粉が飛散しない個体が発見された。花粉の飛散を調べるため,雄花がついた枝を袋に入れ水差ししたところ,飛散期を過ぎても花粉嚢が開かず,全く花粉を飛散しなかった。花粉嚢内の状況を光学顕微鏡で観察したところ,正常花粉と異なる大小の粒子が観察された。電子顕微鏡で花粉嚢内を観察したところ,正常花粉同様に花粉の表面に形成されるオービクルは観察されたものの,正常な花粉は形成されていなかった。種子の稔性を調査したところ,結実した球果は小型で,正常な種子は形成されなかった。さし木の活着率は70%であり,クローン増殖が可能であった。増殖したさし木クローンに着花した雄花も花粉を飛散せず,雄性不稔形質は増殖個体でも再現性があった。染色体数を確認したところ 2n= 22 本で2倍体であり,染色体数の異常は認められなかった。花粉四分子期の観察により,雄性不稔形質は,減数分裂時の不等分裂が原因であると推定された。雄花および球果の状況から,両性不稔個体であると判断された。