- 著者
-
齋藤 裕一
- 出版者
- JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
- 雑誌
- 日本理学療法学術大会
- 巻号頁・発行日
- vol.2010, pp.CbPI1274-CbPI1274, 2011
【目的】<BR> 脊椎後弯変形は高齢者における代表的な病態のひとつであり、膝関節疾患等と併合して起こる姿勢アライメント不良や生活動作制限、転倒等の要因となりうる。脊柱後弯姿勢により姿勢アライメントが乱れ転倒リスクが高まることは報告されている。姿勢アライメントとしての脊柱後彎姿勢の評価方法は様々な方法が報告されているが、脊柱後彎のみに対する評価の報告は多くない。今回は簡易的かつ安価で行える自在曲線定規を用いて評価し、脊柱後彎を円背姿勢に置き換え評価することとした。本研究は加齢による脊柱後弯変形や転倒リスクを検討する為の先行研究として、健常者における脊柱後弯の程度(円背指数)を知ることを目的とした。<BR>【方法】<BR> 対象者は、脊椎疾患を有してない健常女性42名とした。平均年齢は44.0±9.7歳、平均身長は157.1±5.2cmであった。円背指数の計測方法としては、腕組み・足底非接地の安楽座位にて市販されている60cmの自在曲線定規(発売元:金亀糸業株式会社)を用い、第7頚椎(以下、C7)から第4腰椎(以下、L4)棘突起までの背部の彎曲の形状を紙上にトレースした。紙面上にトレースした彎曲のC7とL4を結ぶ直線をL(cm)、直線Lから彎曲の頂点までの垂線の距離をH(cm)とし、Milneらの式を用い、その割合を円背指数=H/L×100として算出した。評価は同一の理学療法士により行われた。そして、円背指数を平均値とこの95%信頼区間の範囲を求めた。また、被検者間の個体差として、身長差で生じる対象者の脊椎の長さ(C7~L4)を考慮し、身長(cm)と脊椎の長さC7~L4間の彎曲距離(以下、彎曲距離)を測定した。そして、各々の身長に対して、彎曲距離、L、Hを比較した。<BR>【説明と同意】<BR> 対象者は医療・介護施設の職員であり、書面にて本研究の目的と方法を説明し、署名により同意を得られた者である。<BR>【結果】<BR> 円背指数の平均値は8.08(3.19~11.36)であり、95%信頼区間は-0.63~0.63であった。その他の測定結果は以下に示し、カッコ内は最小値~最大値の範囲を示した。身長の平均値と95%信頼区間は157.1±5.17cm(145cm~166cm)、彎曲距離の平均値と95%信頼区間は46.3±2.14cm(43.0cm~49.5cm)、Lの平均値と95%信頼区間は43.1±2.06cm(39.5cm~47.0cm)、Hの平均値と95%信頼区間は3.5±0.88cm(1.5cm~5.0cm)であった。被検者間の個体差では、身長と彎曲距離の比較では相関を認めたが、身長とL、Hの比較ではどちらも相関を認めなかった。<BR>【考察】<BR> 今回計測方法はMilneらにより再現性が証明されている。また、寺垣らは高齢女性での観察における円背指数を正常9.2±2.5、軽度後彎12.7±3.6、中等度後彎17.9±2.5、重度後彎22.3±2.5と示している。被検者間の個体差について、身長と脊椎の長さでの相関は円背指数が身長差等の構築学的影響を受けないことが示された。円背指数に影響を与えるL、Hの2項目で個体差を認めなかったことから、本研究で示された平均円背指数は妥当であると考えられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 本研究において健常女性の円背指数の平均値を知ることができた。自在曲線定規を用いた計測を行うときの基準値となり、脊柱後彎を評価する上での判断基準が示唆された。今後の方向性として、対象者の人数を増やして、より厳密に基準値を明確化していく必要がある。また、性差や年代による円背指数の変化を検討し、転倒リスクを評価できる独自のツールを作成していきたい。