- 著者
-
齋藤 遥香
鈴木 洋佑
市川 由唯
宮下 絵美里
- 出版者
- 日本地球惑星科学連合
- 雑誌
- JpGU-AGU Joint Meeting 2017
- 巻号頁・発行日
- 2017-05-10
福島県いわき市には「風と坊主は十時から」という言い伝えがある。しかし、本校の1,2年生640名にアンケートを取ったところ10名しか知っている人がいなかった。そこで実際にこのことわざは信頼性があるのか、そして本当に風が10時から吹くのかを検証した。また風が吹くということが、風が吹き始めることと風が急に強くなることのどちらを指すのかを検討した。 まず、気象庁の過去20年分の午前6時から12時の風速と風向のデータを天候別と季節別に統計した。観測地点はいわき市を含む福島県沿岸部の2地点と内陸の計4地点に設定し、吹き始めと風速の変化の大きい時間を調べた。人が風を感じる風速3.0m/sを初めて超えた時間帯を風の吹き始めとし、また、風速3.0m/sを超えた中で1時間の風速の変化量が最も大きい時間帯を風速の変化量とした。本研究では、この2つのデータと、その時観測された風の向きを統計の対象とした。 その結果、沿岸部のいわき市小名浜と相馬市では、吹き始め・変化量のどちらにおいても10時から風が吹くことが多く、特に春と夏は風速の変化量が最大になる時間帯が10時より早かった。風向きに関しては、夏は海側からの風が、冬は北西よりの風が多くみられた。このことから、春と夏に小名浜や相馬市で10時より早い時間帯に吹く風は海風であると考察した。一方で内陸に位置する福島市と会津若松市では、吹き始め・変化量どちらにおいても一年を通しておおむね10時より遅い時間帯に多く吹くことが分かった。風向きに関して、夏は北東、それ以外の季節では北西か西北西の風が多かった。 沿岸地域で風速の変化量が大きくなる時間帯が夏に早くなる原因が海風にあることを確証づけるため海風を模擬的に起こす実験を行った。まず水槽に水と砂を配置し、その間に風を可視化するため線香を置いた。そして熱を発する500Wのハロゲンライトで砂と水を温め、海陸風を発生させた。また温める前の砂と水の温度はどちらも10℃にして、実際の海水温と気温の変化と実験の結果を比較するため、水の温度と砂の温度を測定した。この実験を6回行った。風が吹き始めたというのは、上昇気流が砂の上で生じた時とした。実験から、風が生じたのは砂と水の温度差が平均して5.216℃の時だった。その条件に当てはまる気温と海水温の時間帯を調べたところ、8時と9時の割合が高かった。このことから、夏の8時に風速の変化量が大きかった理由が海風の影響を受けたためであると推測した。 このことから、福島県いわき市小名浜ではこの言い伝えがおおむね適用できるということが分かった。