著者
高橋 龍介 萩原 礼紀 龍嶋 裕二
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.CdPF2035-CdPF2035, 2011

【目的】<BR> Femorotibial angle(以下FTA)210度の変形性膝関節症(以下KOA)患者に対して,当院整形外科にて人工膝関節置換術(以下TKA)を施行した.手術前後での歩行について動作分析装置を用いて,比較検討を行ったので報告する.<BR>【症例紹介】<BR> 83歳女性で,高血圧症以外に特記すべき既往歴,合併症はない.現病歴は,約20年前より右膝の内反変形を自覚するも近医にて保存的加療を継続していた.3年前より右膝関節の疼痛が増悪し,歩行困難を主訴にて当院整形外科に紹介され手術適応と判断された.術前は安静時,動作時にNRS(numerical rating scale)7~8の疼痛がみられた.FTAは右210度,左181度であり,横浜市大方式による変形性膝関節症分類(以下OAgrade)5であった.ROMは右膝関節屈曲115度,伸展-10度で,右下肢筋力はMMT3であった.コンポーネントは,Zimmer社LCCKを使用してcement固定で行った.手術後の理学療法は,日大メソッドにて実施した.<BR>【方法】<BR> 路上における10mの直線自由歩行を測定課題とした.測定前に複数回の試行を実施し動作に習熟させた.被験者の体表面上位置に赤外線反射標点を貼り付け空間座標データを計測した.直径25mmの反射標点を,剣状突起,右側の膝蓋骨上縁,脛骨粗面,下腿遠位中央部,両側の肩峰,上前腸骨棘,大転子,腓骨頭,外果,踵骨,第5中足骨頭の計18点に貼り付け,6回測定を行った.歩行が定常化する4歩行周期目以降の位置に,測定域として2m<SUP>3</SUP>の補正空間を設定し,空間内を移動する反射標点を測定した.測定課題を実施中の標点位置を三次元動作解析装置(ライブラリー社製GE-60)により撮影した.サンプリング周波数は120Hzとした.計測した1歩行周期を,画像データから各運動相に分類した.解析方法は,観測データをPCに取り込み,平均的な波形を抽出するために,最小二乗法により最適化を行い,位相を合わせ平均化した.計測した重複歩長,歩隔,歩行周期の各相における右股関節,膝関節の角度,右立脚期のFTAを3次元動画計測ソフト(ライブラリー社製 Move-tr/3D)を使用して求めた.測定された値は,5次スプライン補間により補正し,小数点2桁目を四捨五入し,術前と独歩可能となった術後12病日目を比較した.<BR>【説明と同意】<BR> 本研究の目的および方法について,十分に説明し書面にて同意を得た.なお本研究は,本学医学部の倫理委員会の承認を得て行った.<BR>【結果】<BR> 術前右重複歩長39.9±2.4cm,左重複歩長34.0±5.7cm,術後右重複歩長45.9±2.0cm,左重複歩長48.6±4.4cmと左右ともに延長された.術前歩隔は13.5±2.5cm,術後7.0±2.7cmと狭小化した.術前歩行周期の各相における右股関節屈曲角度heel strike(以下HS)14.3±6.7度,foot flat(以下FF)14.6±5.0度,mid-stance(以下MS)12.9±5.9度,heel off(以下HO)11.8±4.9度,toe off(以下TO)19.9±4.5度.右膝関節屈曲角度HS22.1±6.7度,FF30.3±5.0度,MS35.2±5.9度,HO33.1±4.9度,TO30.1±4.5度.術後歩行周期の各相における右股関節屈曲角度HS17.3±6.7度,FF13.3±5.0度,MS18.3±5.9度,HO25.4±4.9度,TO8.8±4.5度.右膝関節屈曲角度HS8.2±7.7度,FF22.8±5.7度,MS43.4±6.7度,HO10.2±4.8度,TO9.3±6.5度となった.右立脚期のFTAは術前で211.8±3.8度,術後で181.3±4.1度と改善した.<BR>【考察】<BR> 術前は,右立脚期に著明なlateral thrustが生じていた.これは,関節構成要素が破綻していることによって生じており,疼痛を回避するために主動作筋と拮抗筋の同時収縮による関節の剛性が高まった結果,膝関節運動も低下していた.12病日目に独歩可能となり,同日に測定した結果は上述のとおりで,右立脚期のFTA,重複歩長,歩隔が改善した.これはTKAにて結果に示す様なアライメントに矯正され,関節にかかる力学的不均衡の問題が解消し,さらに,理学療法の施行によって再獲得したアライメントに対する効率的な運動再学習が得られたことによると考えられた.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> OAgrade5でFTA210度と高度KOAであっても,適正な理学療法を実施することで,早期に歩行可能となった症例を提示した.
著者
髙橋 龍介 萩原 礼紀 龍嶋 裕二 角田 亘
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101495-48101495, 2013

【目的】人工膝関節置換術(以下TKA)施行患者の歩行解析は広く行われているが,その多くは片側TKAを対象としている.しかし,歩行は一側では成立しない動作のため,非術側の影響を受ける.また,変形性膝関節症(以下KOA)においては両側罹患している症例が多いために非術側の影響は顕著になる.特に,KOA患者の歩行時の訴えとして立脚期の疼痛が多い.そこで今回,両側KOA患者に対して両側同時TKAを施行された患者の歩行周期の区間時間比率に着目して,立脚期の時間変化を把握する目的で三次元動作分析を実施し,手術前後で比較・検討したために報告する.【方法】当院整形外科にて両側同時TKAを施行し,当科で術後に理学療法を施術した症例のうち,関節リウマチを除いた独歩可能な両側KOA8例(女性7例,男性1例)とした. 平均年齢74.1±5.0歳,全例横浜市大分類Grade4及び5,術後19.1日で退院した.術前の平均FTA右188.9±8.0°左191.6±8.1°,平均膝ROMは屈曲右122.0±14.1°左115.6±18.0°,伸展右-10.0±8.5°左-9.4±13.5°であった.測定日は,手術前日と退院前日に実施した.測定課題は,10mの直線歩行路上における自由歩行とした.測定前に複数回の試行を実施し動作に習熟させた後に5回測定した.被験者の体表面上位置に直径15mmの赤外線反射標点を貼り付け,空間座標データを計測した.測定は,歩行が定常化する4歩行周期目以降の位置に補正空間を設定し,空間内を移動する反射標点を三次元動作解析装置により撮影した.サンプリング周波数は120Hzとした.解析方法は,観測データをPCに取り込み,平均的な波形を抽出するために,最小二乗法により最適化を行い,位相を合わせ平均化した.計測した1歩行周期を,画像データから各歩行周期に分類した.歩行速度,左右重複歩距離・時間,歩行周期の区間時間比率を3次元動画計測ソフトにて求めた.測定された値は,5次スプライン補間により補正し,小数点2桁目を四捨五入した.対応のあるT検定にて左右脚と術前後での有意差を求めた.有意水準は5%未満とした.測定項目は平均±標準偏差で表記した.【説明と同意】主治医同席のもと,本研究の目的および方法について,十分に説明し書面にて同意を得た.本研究は,本学医学部の倫理委員会の承認を得ておこなった.【結果】術前の速度0.7±0.2m/sec,右重複歩距離86.1±17.5cm時間1.2±0.2sec,左重複歩距離85.6±17.0cm時間1.2±0.2sec,歩行周期の区間時間比率の右脚はHS-FF6.6±1.8%,FF-MS3.4±2.3%,MS-HO29.8±5.1%,HO-TO16.1±3.5%,TO-HS44.1±5.7%,左脚はHS-FF7.6±2.2%,FF-MS1.9±1.3%,MS-HO27.3±3.1%,HO-TO17.4±5.4%,TO-HS45.9±5.2%であった.術後の速度0.6±0.1m/sec,右重複歩距離84.9±13.2cm時間1.3±0.1sec,左重複歩距離84.2±12.9cm時間1.3±0.1sec,歩行周期の区間時間比率の右脚はHS-FF6.3±1.6%,FF-MS2.3±1.1%,MS-HO34.6±3.7%,HO-TO13.4±2.4%,TO-HS43.5±2.8%,左脚はHS-FF7.3±1.3%,FF-MS2.1±1.4%,MS-HO32.1±7.3%,HO-TO12.5±5.3%,TO-HS46.0±4.9%となった.比較した左右脚と術前後すべての項目において有意差は認められなかった.【考察】測定した項目は左右同様の傾向を示し,平均値を術前後で比較するとMS-HOが拡大し,HO-TOが短縮する傾向を示した.これは,TKAによってアライメントが矯正され,術後の理学療法で再獲得したアライメントに合わせた効率的な運動学習が得られたことで,片脚で安定した荷重制御が可能となりHOのタイミングが延長されたと考えた.術前後で有意差が認められなかったことは,術後2週間で自由歩行は可能となったが術前の状態を上回るほど改善には至らなかったためと考えた.しかし,片側TKA後に1~2週では歩行能力は低下し,3~4週に術前の状態を上回るとの先行研究がある.そのため,今後に術前の状態を上回ると予測されることから,引き続き経時的に変化を追って状態を把握する必要がある.【理学療法研究としての意義】今後増加する高齢手術対象者に対応するため,術後により効率的な理学療法を行うことが必要となる.そのためには,詳細な動作様式を把握し,術前より術後の状態を予測することが重要と考える.