著者
龔 卿民
出版者
鹿児島大学
雑誌
地域政策科学研究 (ISSN:13490699)
巻号頁・発行日
no.14, pp.71-96, 2017-03

本論は,中国湖北省の土家族の婚姻習俗の変容に関するもので,建国後の中国を2つの時代に区分し,それぞれの時期に土家族の伝統的婚姻習俗がどのような変容を遂げてきたか,またその要因と問題点について考察するものである。 湖北省の土家族の婚姻習俗が変容してきた1つの要因として考えられるのは,土家族が長期にわたり漢族と共に生活する中で漢族の文化の影響を強く受けてきたことである。もう1つの要因としては,「改革開放」以降の中国の経済的,政治的発展がもたらした社会変化による影響である。 湖北省土家族の婚姻習俗の歴史的変遷を見ていくと,中国建国初期は,国家が婚姻法を実施し,男女平等の自由婚姻を提唱したが,民国また清朝時代の漢族封建社会の文化習俗が多く残存していたうえに,湖北省土家族地域が中央政府所在地から遠く離れていたため,その地域の統治も完全ではなかった。そのため,その時期の婚姻習俗の構成要素が多く,儀礼も複雑であった。その後,国家は文化の大改革を全国規模で展開し,土家族のような少数民族の文化習俗は「四旧」として修正また廃止され,また,全国規模で節約を励行し,社会主義社会の発展をうたったので,土家族の婚姻習俗や儀礼も簡略化されていった。 「改革開放」の時代になると,政治的環境が緩和され,経済も著しく発展するなかで,少数民族の文化習俗が認可されるようになり,土家族の婚姻習俗も復活し,かつての婚姻儀礼が重視されるようになる一方,都市化や観光化など多方面の影響を受けるようになった。