著者
AMANO Kyoko
出版者
日本印度学仏教学会
雑誌
印度學佛教學研究 (ISSN:00194344)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.1161-1167, 2015-03

黒ヤジュルヴェーダ・サンヒター(マイトラーヤニー・サンヒター[MS],カータカ・サンヒター,タイッティリーヤ・サンヒター)の散文部分は,ヴェーダ祭式についての最も古い説明書である.筆者による最近の研究は,MSの各章がそれぞれに示す言語的特徴を明らかにし,同文献において複数の言語層が存在するという可能性を示唆した.これは,MS成立の解明に向かう新たな視点と言える.本研究では,各章の言語や記述意図・記述スタイルの違いを浮き彫りにする数例の言語現象を取り上げる.MSにおける散文章すべてについて考察を行うが,特にIII巻1-5のAgniciti章のMSにおける位置づけに焦点を当てて考察する.その結果,マントラのみを,付随する祭式行為への言及なしに引用する用法,マントラをhi文で説明する用法,そしてyad aha...iti文でマントラを引用する用法が,III巻以降に顕著に頻繁になることが明らかになった.III巻以降,マントラの引用と説明に重点を置く傾向が強くなったと理解される.そして,これらの用法が,I巻4-5に共通して現れることも分かった.しかし,atha+esa-/eta- による祭式説明の導入の用法を見ると,III巻1-5とI巻10-11に共通していることが分かった.III巻以降の章は,I巻に見られるスタイルを選択的に踏襲しており,特にI巻4-5の影響が強く,I巻10-11も影響していることを,本考察の結論として述べた.