著者
久保 健治 中川 慧 水上 大樹 Acharya Dipesh
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会第二種研究会資料 (ISSN:24365556)
巻号頁・発行日
vol.2022, no.FIN-029, pp.23-27, 2022-10-08 (Released:2022-10-01)

暗号資産販売所は、ビッド・アスク価格を提示し、顧客から暗号資産の注文を受け付ける相対取引サービスであり、暗号資産市場に流動性を供給している。顧客からの注文によって販売所の暗号資産の在庫は変化し、一方で、在庫は常に価格変動リスクに晒される。このため、適切な在庫管理が必要になる。同じ相対取引サービスである FX ディーラーの在庫管理問題については、確率制御に基づいた最適流動化戦略が提案されている。ただし、暗号資産市場は FX 市場と比べ、流動性が低く、ボラティリティが大きい。更に、暗号資産販売所においては顧客から注文に大きな偏りがみられる。そのため、暗号資産販売所における在庫管理問題を解決するためには、暗号資産市場に特有の性質を考慮して、最適流動化戦略を構築する必要がある。そこで、本研究では暗号資産販売所に対する在庫管理問題を定義し、確率制御に基づき最適流動化戦略を提案する。また、モデルパラメータを bitFlyer の公開データを用いて推定し、数値計算により、最適流動化戦略を得た。得られた結果から、注文頻度の偏りが最適流動化戦略に影響を与えることを示した。また、単純な流動化戦略と比較することで、提案手法の有効性も確認した。本研究は暗号資産販売所における最適流動化戦略という新たな領域を開拓するものになるであろう。