著者
西原 明史 Akifumi Nishihara
出版者
安田女子大学
雑誌
安田女子大学紀要 = Journal of Yasuda Women's University (ISSN:02896494)
巻号頁・発行日
no.50, pp.65-74, 2022-02-28

本研究は観光のもう一つの形を模索する試みである。その原点とも言える聖地巡礼や教養旅行に始まり、近代イギリスで誕生した団体ツアーから現代の様々なツーリズムに至るまで、観光は常に成長や再生を求めて行われてきた。一方、試練を経て成長するという通過儀礼の図式に沿って進むあらゆるジャンルの物語もまた、成長を疑似体験するために読まれている。つまり両者とも成長がよきものであるというイデオロギーを強固にすることに寄与しているのである。しかし過剰な経済成長は地球規模で環境破壊や格差の拡大をもたらしており、成長至上主義からの脱却を求める声はますます高まっている。そこで本稿では、例外的に脱成長の物語を生み出してきた三人の作家の成長観をその作品から読み取り、それを反映させた「脱成長」型の観光スタイルを提案した。
著者
西原 明史 Akifumi Nishihara
出版者
安田女子大学
雑誌
安田女子大學紀要 = Journal of Yasuda Women's University (ISSN:02896494)
巻号頁・発行日
no.46, pp.19-29, 2018

日本は「老舗大国」である。その理由としてよく持ち出されるのが、日本人の勤勉さや倫理感といった「国民性」だ。しかし、こうした根拠の薄い概念による説明は説得力に欠ける上、近年のメディアで目立つ日本賛美の論調とも恐らく共振している。そんな従来の老舗論への違和感から、本研究では比較社会文化史という方法で老舗存続の背景を考察することとした。老舗の多くは明治時代に端を発する。そこで、いずれも経済発展を遂げた中国の宋王朝、江戸時代及び明治以降の日本の三つの政治経済システムを整理し、そこから老舗の社会的条件を定式化することができた。それは、経済活動への自由参加が可能であること、そして規制と保護の機能を兼ね備えた中間組織が存在することの二つである。さらに、江戸時代の社会構造の下で形成され、その後も継承された「勤勉と信用」といったエートスが加わることで、明治以降に多くの老舗が生み出されたのではないだろうか。