- 著者
-
西原 明史
Akifumi Nishihara
- 出版者
- 安田女子大学
- 雑誌
- 安田女子大學紀要 = Journal of Yasuda Women's University (ISSN:02896494)
- 巻号頁・発行日
- no.46, pp.19-29, 2018
日本は「老舗大国」である。その理由としてよく持ち出されるのが、日本人の勤勉さや倫理感といった「国民性」だ。しかし、こうした根拠の薄い概念による説明は説得力に欠ける上、近年のメディアで目立つ日本賛美の論調とも恐らく共振している。そんな従来の老舗論への違和感から、本研究では比較社会文化史という方法で老舗存続の背景を考察することとした。老舗の多くは明治時代に端を発する。そこで、いずれも経済発展を遂げた中国の宋王朝、江戸時代及び明治以降の日本の三つの政治経済システムを整理し、そこから老舗の社会的条件を定式化することができた。それは、経済活動への自由参加が可能であること、そして規制と保護の機能を兼ね備えた中間組織が存在することの二つである。さらに、江戸時代の社会構造の下で形成され、その後も継承された「勤勉と信用」といったエートスが加わることで、明治以降に多くの老舗が生み出されたのではないだろうか。