著者
BARUA Titu Kumar
出版者
日本印度学仏教学会
雑誌
印度學佛教學研究 (ISSN:00194344)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.1289-1293, 2012

Tel-lonaniはバングラデシュのバルア仏教徒が結婚式当日に式前に家庭で行なう儀礼で,「頭に油を注ぐこと」を意味するチッタゴン方言に由来する.本論では,この儀礼の次第と,儀礼の随所に込められた象徴的な意味を取り上げた.まず僧侶に日取りを相談するのだが,バルアにとっては川の満潮時がめでたい時である.儀礼に際してはドゥルヴァ草やグアヴァなどを準備するが,それらには,「成就」や「繁栄」などの意味が込められている.Tel-lonani儀礼は新郎新婦それぞれの家で一連の儀式を5回行う.竹と布で仕切られた空間にカップルが座り,列席者が一人ずつ5回ドゥルヴァ草で二人の額に触れる.その後全員の手を添えて同じことをする.これらには,「一人から結び合いへ」,「調和」の意味があるとされる.二人が座る敷物は,一回の儀式が終わるごとに剥がして揺すられるが,浄化儀礼で二人の体から落ちた穢れがついたために敷物をきれいにすることを含意している.儀礼の終盤には,母親と親戚の女性が二人の頬と額にターメリックをつけ,それを自分のサリーの端で拭う.これには,子供に別れを告げることが象徴されている.そして最後には,マスタードの種と油が清水とともに二人の頭頂に塗られる.バルア仏教徒はマスタードは風邪の予防,清水は浄化と長寿をもたらすと信じている.このように,Tel-lonani礼は,主たる結婚式に臨む前に新郎新婦の心身を浄化するために行なわれるが,そこで用いられる物や種々の所作には,長寿,繁栄など,二人の新生活への願いが込められている.また,この儀礼には僧侶は参加せず家族や親族が関わるのだが,親子としての別れの後に,新たな家庭を築く二人を親族が今後も支えていくという,通過儀礼としての特徴が色濃く映し出されている.