著者
廣田 泰 上野 恵理子 江口 真嗣 大杉 史彦 若園 博 柳 浩由紀 Beatrix Blume 阿瀬 善也
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第34回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.5016, 2007 (Released:2007-06-23)

化合物Aのラットを用いた胚・胎児発生への影響に関する試験では,無眼球,小耳,上下顎の形態異常といった頭部顔面に特徴的な変化が異常胎児の多くに認められ,このほか曲尾や短尾といった尾の異常も認められた.これらの表現形はレチノイン酸の催奇形性と類似している点が多いことから,化合物Aの毒性ターゲット(主薬効とは異なるoff-targetへの作用)として,核内受容体・レチノイン酸レセプター(RAR)に対する作用が考えられた.そこでRARα,β,γを含め26種類のヒト核内受容体に対する作動性をレポーターアッセイにて検討した.その結果,化合物AはヒトRARα,βおよびγに対して弱いながらもアゴニスト活性を有しており,そのEC50値は1.5~5μg/mL(終濃度)であった.RAR以外に催奇形性に繋がり得る核内受容体への作用は認められなかった.また,ラットのRARに対する作用も検討したところ,ヒトRARと同様にアゴニスト活性を有していた.さらに,妊娠ラットに化合物Aの催奇形性発現用量を投与し胎児の血漿中濃度を測定したところ,Cmaxは117μg/mL,AUCは1577μg・h/mLであった.レチノイン酸をラットやマウスに投与すると,小眼球,無眼球,耳介形態異常,上下顎の形態異常,口蓋裂,曲尾,短尾といった化合物Aの催奇形性と類似した催奇形性が認められることが知られている.これらのことから,化合物AではRARアゴニスト作用のEC50値(1.5~5μg/mL)をはるかに上回る濃度が持続的にラット胎児に暴露された結果,催奇形性が発揮されたものと推察された.