著者
CALDWELL J.A. MALLIS M.M. CALDWELL J.L. PAUL M.A. MILLER J.C. NERI D.F.
出版者
航空医学実験隊
雑誌
航空医学実験隊報告 (ISSN:00232858)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.9-62, 2010 (Released:2020-04-11)
参考文献数
237

パイロットの疲労は現在、航空運航における重要な問題となっている。この主な理由としては、民間と軍の航空運用において、不規則な労働時間、長時間任務、サーカディアンリズムの乱れ、睡眠不足等が日常的なものになってきていることにある。疲労がもたらす影響の全体像は正しく評価されていないが、その有害な作用の多くは、以前から知られているものである。十分に休息をとった人に比較して、断眠した人は、考えることも行動することも、より時間がかかり、より多くの失敗を犯し、また記憶能力も低下する。これらの影響は航空業務エラーや事故を引き起こしうるものである。1930年代、乗務員の疲労を軽減させることを目的として、飛行時間制限、次の飛行までの推奨休息時間及び乗務員の睡眠等について勧告がなされた。これらの勧告は、更新が必要であるにもかかわらず、当初に導入されて以 来、乗務員の勤務規定や飛行時間制限についてはほとんど変更されていない。疲労、睡眠、シフト勤務、サーカディアンリズム(概日リズム)生理学についての科学的な理解は過去数十年にわたって著しく進んだが、現行規則や産業界での慣行は、多くの場合これら新しい知識を適切に取り入れることができていない。このためパイロットの疲労問題は、確実に航空安全に対する懸念をともないつつ増加してきている。事故統計、パイロット自身からの報告、業務飛 行における研究の全てにおいて、疲労が航空運航において次第に重要な問題となりつつあることが示されている。このポジションペーパーでは、関連する科学文献を概観し、該当するアメリカの民間及び軍の航空規則をまとめるとともに、飛行中及び飛行前後の疲労対策を評価し、疲労の検出や対処のための最新技術について述べた。各項目では問題点の考察の後に、ポジションステートメントを明記した。ポジションステートメントでは、最新の科学知識を用いた現行方針の更新を最終目標とすることを念頭において論じた。また航空安全を改善するための方法や技術についても記述した。