著者
中村 高志 尾坂 兼一 CHAPAGAIN Saroj Kumar 西田 継
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.132, no.2, pp.183-196, 2023-04-25 (Released:2023-05-15)
参考文献数
47
被引用文献数
2 2

ネパール・カトマンズ盆地における硝酸イオン(NO3−)およびアンモニウム(NH4+)による高濃度の地下水汚染について,窒素の起源とその分布の要因について調査を行なった。2009年と2010年の雨季(8月)に,丸井戸と掘り抜き井戸から計36の浅層地下水の試料を採取した結果,高濃度のNO3−(最大:63.9 mg/L)ならびにNH4+(最大:36.7 mg/L)が検出された。多くの丸井戸から採取した地下水については全溶存無機窒素に対するNO3−の含有量が多く,不飽和帯から流入するNO3−または酸素の供給により井戸内部で硝化が生じている可能性が示唆された。NO3−の窒素および酸素の安定同位体比(δ15Nとδ18O)の観測の結果,浅層地下水の主要な窒素汚染源は下水の漏水による窒素負荷であることが示された。また,NO3−濃度の減少に伴うNO3−-δ15N値の指数関数的な増加がみられたことや,δ18O値とδ15N値の間に得られる相関の近似式の傾きがおよそ0.5を示したことから,浅層地下水中において脱窒反応が生じでいることが考えられた。加えて,NO3−濃度と溶存有機炭素の間には負の相関関係がみられ,溶存有機炭素が脱窒反応の進行に強く寄与していることを示した。