著者
赤尾 栄慶 方 廣〓 MONIQUE Cohe 富田 淳 GUANGCHANG Fang COHEN Monique MONIQICE Coh COHEN Moniqu
出版者
京都国立博物館
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

平成8・9・10年度の3年にわたって、大英図書館東洋写本部スタインコレクション・フランス国立図書館東洋写本部ペリオコレクション・北京図書館善本特蔵部に所蔵される紀年を有する敦煌写本のうち,200件余りに関して調査研究を実施し、それぞれの書風・書法の観察および紙数・紙高・紙長・紙色・紙厚・簀目・界高・界巾など採録可能な書誌データを収集した。これによって、5世紀から10世紀わたる敦煌写本の書法と料紙の変化がある程度確認できるようになり、1紙の大きさや透過光で見た簀目の数、更には1紙ごとの行数の時代的な傾向などが確認できるようになった。ことに大英図書館東洋写本部において、スタインコレクション中の敦煌写本20件について、透過光による写真撮影を実施し、これによって、5世紀から10世紀にかけての料紙の簀目の様子や紙質の変化を写真によって概観することが可能となったのは大きな成果といってよい。5世紀から10世紀にわたる料紙の変化に関しては、基本的には各時代を通じて麻紙が用いられていたが、製紙技術の向上に伴って隋・唐時代を中心に上質の料紙が製造され、紙を漉く時の簀目なとも細かく、緻密な紙面となっている。また6世紀の写経を中心に、紙継ぎ近くの界線部分の上下に針であけたと見られる針穴の存在を確認し、それらの上下の高さを測定することにより、それらが界線を引くために紙を重ねてあけられたものであるとの見解を有するに至った。書法に関していえば、5世紀は木簡の筆法を伝えて隷意を強く残し、6世紀は隷書風から楷書への過渡期、7世紀前半は楷書、7世紀後半が楷書の写経体の完成期、8世紀以降が衰退期に入り、ことに9世紀以降は粗雑な料紙と乱雑な筆法という傾向にあることなどが確認された。