著者
佐山 公一 PAWEL Dybala PAWEL Dybala DYBALA Pawel
出版者
小樽商科大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

平成24年度に引き続き, メタファー概念ネットワーク構築の具体的作業を行った。日本語表現大辞典(小内, 2005)から収集したメタファーの文例3万についてメタファーのsalience imbalanceの閾値(基準)を計算した。格フレーム等を使い, それぞれの直喩の喩辞と被喩辞の属性のリストをとりだして比較し, 両方のリストに現れた項目を抽出した。項目に, 直喩の共通属性または共通属性らしいものが現れたら, 喩辞の属性リストと被喩辞の属性リストの中の位置を計算し比較する。たとえば, 『疑問が雲のように湧く』では, 喩辞が『雲』, 被喩辞が『疑問』, 共通属性が『湧く』となる。共通属性『湧く』の属性リスト内の位置を計算する。『疑問』の全属性の数188のうち, 『疑問』側の『湧く』の位置が9(平均位置, 9/188=0.048), 『雲』の全属性の数123のうち『雲』側の『湧く』の位置が27(平均位置, 27/123=0.220)となり, 平均位置の差は0.172となる。この平均位置の差をsalience imbalanceの閾値と考える。このようにして, 直喩におけるsalience imbalanceの閾値を計算する。閾値を超えればメタファーとして処理し, 超えなければメタファーとして処理しない, という条件を設けることで, データ内のメタファーを実際にコンピュータが処理できるかどうかを調べた(現在もこの作業を行っている)。作業を行っている過程の中で, 『ような』のような指標を含み, かつ比喩として受けとられる(比喩性を持つ)表現ではあるが実際には直喩ではなく, 文字通りの比較ではあるがその中に換喩を含む表現が数多くあることが分かった。こうした表現は, 表層表現からは直喩と区別がつかない。たとえば, 『クジラのような小さい目』はクジラが小さいことを述べているわけではむろんなく, クジラの目がクジラの体に比べて非常に小さいことを述べている。日本語母語話者はクジラとクジラの目との間の隣接関係を使ってこのことを簡単に理解できていると考えられる。しかしながら, そうした処理はコンピュータには難しい。この日本語の表現を英語に翻訳すると, 『Eye small as whale's』のようになり所有格が使われる。英語では表層表現からそれがクジラの目であることが分かるが, それを日本語にすると表層表現上では分からないことになる。日本語母語話者にとっては, そうした表現も直喩も同じように比喩的に感じられる。日本語母語話者はこういった表現を一種の換喩として理解している。そこでメトニミーもメタファーネットワークに含めることにし, システムの中に換喩と直喩を区別する仕組みも導入することにした。メタファーとメトニミーを, 閾値を使って区別するアルゴリズムを作り実際にコンピュータに判定させた。日本語母語話者にもメタファーかメトニミーかを区別してもらい, その判定結果をコンビ。ユータの結果と比較した。