著者
井上 史雄 Fumio INOUE
出版者
国書刊行会
雑誌
日本語科学
巻号頁・発行日
vol.16, pp.47-68, 2004-10

東京外国語大学この論文では,従来分析を進めてきた標準語形使用データについて,二つの単純化を適用した。地理的位置を鉄道距離によって表現したことと,語形の地理的分布を1点の重心で示したことである。本稿では,まず「河西データ」の県別使用率のグラフにより,標準語形の中でも古代初出語の一部が辺境残存分布を示すことを確認した。つぎに「河西データ」の行にあたる各語形について,鉄道距離重心を計算し,各語形の全国使用率,初出年との対応をみた。2要素ずつを組み合わせた2次元のグラフを考察し,また3要素の関係を示す3次元のグラフを考察した。さらに古代・近代2時代への区分と東西2クラスターへの区分を組み合わせて82語を4区分して検討した。古代初出の東部クラスターの語は,初出年との相関を見せない。しかし他の三つの区分では,初出年がかなりの相関を見せ,しかも近似直線の数値が似ていて,1000年につき31~36%の減少を示す。これは普及年速1キロ(弱)という仮説と矛盾しない。文化的中心地から新しく出た語は,最初は全国使用率が低いが,年数が経つと古く出現した語と同じ過程をたどって全国に広がって,全国使用率が高まると考えられる。また古代に出た語は,その後の新形に侵食されて,文化的中心地を明け渡すことがある。