- 著者
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若林 満
Gallagher Daniel G.
Graen George B.
- 出版者
- 名古屋大学教育学部
- 雑誌
- 名古屋大學教育學部紀要 教育心理学科 (ISSN:03874796)
- 巻号頁・発行日
- no.35, pp.p1-20, 1988
本論文においては, わが国産業組織における終身雇用制度を基調とした人材育成の問題点が, 客観的キャリアと主観的キャリアの2つの視点から問題とされた。客観的キャリアの視点は, 組織で働く人びとの職務・地位・部署など, 公式的な面での変化や異動を記述し説明することを目的としている。本論文ではこの客観的視点からの検討は, 大卒男子社員の管理職への昇進過程に関する13年間の縦断研究の資料に基づき行われた。そこでの問題は誰が, いつある地位に昇進していくか, またそれを規定する要因は何かという問題であったが, 分析の結果, 管理職へのキャリア発達は年功序列というよりは, かなり厳しいトーナメント型の競争過程であること。そして誰が, いつ昇進するかは, キャリア発達の初期段階(入社3年目ぐらいまで)の実績(業績評価と能力評定), およびそれまでの直属上司との対人関係(垂直的交換関係)のあり方によって規定されることが明らかとなった。この結果は, 管理職キャリア発達における早期分化の仮説を支持するものであった。次に, 主観的側面からのキャリア発達の研究として, 大卒および高卒者の仕事の満足感と組織へのコミットメントが分析された。筆者らの調査から得られた大量サンプルに基づく横断的研究の結果, 新入社員から中高年社員層の勤続年数グループ間での比較をみると, 満足度や組織との一体感は若年層と中高年層で高く, 中堅層(入社8∿10年前後)で最低となるU字型を呈していることが見出された。加えて, 他の研究をもとに, 日本の労働者と外国の労働者の仕事満足感を比較すると, 多くの研究がわが国労働者の満足感の低さを支持する結果を示していた。以上の分析から, 終身雇用制度のもとでのわが国従業員のキャリア発達は, 客観的側面では年功序列的というより競争的であり, 主観的側面では満足度が高く組織との一体感が高いという一般的予想とは, ほど遠い結果であることが明らかとなった。国立情報学研究所で電子化したコンテンツを使用している。