著者
HURUSAWA Isao
出版者
公益社団法人 日本植物学会
雑誌
植物学雑誌 (ISSN:0006808X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.703, pp.71-76, 1947

1) アマミヒトッバハギ 奄美大島にヒトツバハギの一變種があるので報告する. 因に, <i>Securinega</i> 屬に就て少し考へてみる. Pax-Hoffmann の system で subtrib. Glochidinae 及び subtrib. Phyllanthinae は甚だ混亂した群概念で其中に於ける屬相互の關聯づけにかなり不自然な點が見られる. <i>Securinega</i> (及び他一, 二の屬)と <i>Phyllanthus</i> (及び <i>Reverchonia</i>) とを假雄蕊の有無により區別したことは機械的である. <i>Phyllanthus</i> に近縁の <i>Glochidion</i> (兩者を別のsubtrib. とすることも穏當でないが) は現在通用せる概念では假雄蕊を有するものと全然缺くものとある. 少し距るが <i>Antidesma</i> では同種内で (同一個體に於てさへ) 屡々明瞭なもの, 不明瞭で痕跡的なもの, 缺除せるものが混在する. 花部要素の基數に就ても <i>Phyllanthus</i> の3, 6 と<i>Securinega</i>の5 とを其の發生的な考慮なしに區別點に使ふのは安易な觀方であらう. <i>Securinega</i> 屬の概念が或程度生態的な外觀に基いたことを反省して舊い觀方ではあるが, <i>Phyllanthus</i> との關聯に於て再檢討される必要がある. 序ながら臺灣のシマヒトツバハギ屬 <i>Fl&uuml;ggea</i> は <i>Securinega</i> から屬として區別すべきでない. 根據詳論は別の機會にゆづる.<br>2) コバンノキ 前項にも觸れたように <i>Phyllanthus</i> をめぐる諸屬は尚廣汎な revisio を要する群であるが, 其の一つコバンノキは最初 <i>Cicca</i> 屬として, 後 <i>Phyllanthus</i> の下に, 或はMiquel や Pax により <i>Glochidion</i> に編入され變遷を經たが, 嘗て Baillon が <i>Hemicicca</i> として獨立せしめたことがある. <i>Phyllanthus</i> に最近縁であるが Baillon の意見を最も妥當と思ふ. 臺灣の <i>Hemicicca tetrasperma</i> (Hayata) の他, 中國(大陸)に若干, 茲に屬するものがある.<br>3) オゼヌマタイゲキ 尾瀬平に産するハクサンタイゲキの少し變つた型. 子房外面の疣状突起の間に長軟毛を生ずる. 此の形質は本屬中でも稀で, 邦内では <i>Euph. togakusensis</i> Hayata, アジア大陸では印度シツキム地方の <i>Euph. sikkimensis</i> Boissier, 滿洲産 <i>Euph</i>. <i>barbellata</i> Hurusawa などに見られる. <i>E. togakusensis</i> の基準型 (type-specimen による) は莖葉廣く殆ど楕圓形で基底鈍形であるが, 本植物では莖葉狹く基脚は漸尖して短い葉柄へと流れ込む. 久内清孝氏が蛭ヶ野よりもたらされた植物は更に此の傾向著しく, 莖葉披針形で外觀が偶然東大〓葉室に一枚標本のある <i>E. sikkimensis</i> に似て來るのは面白い (但し兩者の直接關係は考へられない. 差異點は略す). <i>E. barbellata</i> は <i>Euph. pekinensis</i> Ruprecht 系統のものである. <i>E. pekinensis</i> 系のものは平地にさかえ, その諸型が高山に見られる (var. <i>Fauriei</i>, var. <i>ibukiensis</i> 等)が, <i>E. togakusensis</i> は低地に降らない. 尾瀬平は最も低い出現であらうか.<br>4) キヌゲソウ <i>Cymbaria dahurica</i> Linn. の Maximowicz 氏による解釋は廣範圍の諸型を含めてかなり大きく見てゐるようである. 滿洲産ウスギヌサウ狹義の <i>Cymb. dahurica</i> に比して, 察哈爾省産の本植物はより密なる絹毛を植物全體に布き, より大形の美花をつける. 富樫氏の採集品による.<br>5~8) 富樫氏の北支植物採集標本は豊富な <i>Pedicularis</i> 屬の種類を含むでいた. 各種諸型の系統關係に就てはいづれ他の機會に記す. 各種に就いての解説は省略. 其の中, 山西省五臺山のセイリヤウシホガマ <i>Pedicularis tristis</i> Linn. var. <i>Nakaiana</i> Hurusawa は興味ある種類であつた. 葉形や植物全姿に於て幾分北部朝鮮産のナギナタシホガマ <i>Ped. lunaris</i> Nakai を想はせるものがあるが, 花部形態で明かなごとく全く別系統に屬する. 生育形態の似た種類を印度南部やセイロン島に産する <i>Ped. zeylanica</i> Benth. 或はチベツト, ヒマラヤ, シツキム産の <i>Ped. trichoglossa</i> Hook. fil. に於て氣附くのであるが, 花部器官の分折からこれ等との近縁關係は極めて薄い. オニシホガマ節 sect. Anodon とシホガマギク節 sect. Rhyncholopha とを繋ぐ中間型的な (後者の群に屬せしめ得るが) 種類である. 變種名は恩師中井猛之進先生に捧げた. 和名は五臺山本來の名稱清涼山より採る.