著者
IKUSIMA Isao
出版者
The Botanical Society of Japan
雑誌
植物学雑誌 (ISSN:0006808X)
巻号頁・発行日
vol.78, no.924, pp.202-211, 1965
被引用文献数
21

生嶋功: 水生植物群落の生産力についての生態学的研究 I. 光合成の強さの測定沈水植物の光合成率と呼吸率を測定するための大形酸素ビンを工夫した. 特に測定方法を吟味し, ことなった測定条件不における測定値の妥当性を検討した. 夏季の光飽和での総光合成率は最高38mgO<sub>2</sub>/g乾重/hr (ほぼ 5mgCO<sub>2</sub>/100cm<sup>2</sup> 葉面積/hrに換算される) に達し, 呼吸率は 3-4mgO<sub>2</sub>/9/hrであった. 一般に繁茂期の沈水植物では, 光の強さの広い範囲で種に関係なく 5-10mgO<sub>2</sub>/g/hr 程度の光合成率を示した. これは, 葉面積あたりにすれば, 陸上植物の光合成率の1/2から1/10の値である.クロモやマツモは冬季を越冬芽 (winter bud, turion) ですごす. 越冬芽の光合成は, 同種の植物体のそれにくらべ1/10以下の値をとることが多い. 直射日光があたるような水中では, 越冬芽の1日の剰余物質生産量は0ないし, わずか+の値をとることが期待される. しかし自然条件下では, 越冬芽は泥や浮泥にうもれていることが多く, 全く貯蔵物質に依存した越冬様式をとるといえる.水生植物の生産構造には, 陸上植物群落の grass type と herb type にそれぞれ対応する2つの型がみられた. セキショウモのように, 線形ないしへら形の葉をもつ種類の群落は前者であるが, エビモそのほか大多数の種類では後者である. そして十分に発達した後者の群落では, 植物体の尖端部が水面になびく結果として水面近くに同化系器官のあつい層ができ, herb type の特徴が極端に強調される.群落の光合成の <i>in situ</i> をつかうことによって測定した. 光合成率は群落の上部では大きい値をとり, 下部では小さい値をとる. この現象は, 主として群落内での葉の位置による能力の差にもとつくことが実測されたが, さらに水中では深さにともなう光の減少がこれに加算的に作用するもの解としてよい. 呼吸率は群落の上下の部分で著しい差はみられなかった.群落全体について, 1日あたりの生産量を近似的に求めた. 6月のセキショウモ群落では純生産が-0.59g乾重/m<sup>2</sup>/day であり, 群落形成の初期では根茎中の貯蔵物質の消費が同化器官の生長, とくに伸長生長に対し大きな役わりをはたしていることがわかる. 5月のエビモ群落では, 0.50g 乾重 /m<sup>2</sup>/dayであり, 生育の末期においても純生産量は小さい. 総生産量はそれぞれ, 0.66およびで2.39乾重/m232/day であった.(千葉大学文理学部生物学教室)