著者
伊藤 正憲 ITO Shoken
出版者
京都女子大学現代社会学部
雑誌
現代社会研究 (ISSN:18842623)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.119-130, 2013-12

幸福のパラドックスについて議論する場合には、生活評価、生活満足度、幸福度、感情の四つを区別することが重要である。幸福のパラドックスとは、いわゆるイースタリン・パラドックス─国際比較でみて所得の高い国のwell-beingが高いとはいえないこと、及び一国時系列でみて所得の上昇が必ずしもwell-beingの上昇をもたらさないこと─そして国際比較で所得がある水準以上になるとwell-beingが頭打ちになること(飽和点の存在)である。しかし、Cantril Ladderによる生活評価を指標に使った近年の諸研究によれば、国際比較でみて評価と対数所得との間に直線的な右上がりの関係が見出される。これは、生活の評価がグローバル・スタンダードに基づいてなされているからだと考えられている。一国時系列でも多くの場合、生活満足度を指標にとればそれは所得の上昇とともに上昇している。ただし、感情を指標にとると米国の場合、最近の一時点でみてwell-beingがある所得水準で頭打ちになる。