著者
Ikegami Ryohei Kishinouye Fuyuhiko
出版者
東京大学地震研究所
雑誌
東京大学地震研究所彙報 (ISSN:00408972)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.121-128, 1950-10

從來大地震の際の加速度推定の資料として顛倒した墓石等を用ひて,その巾と高さの比から推定する事がしばしば行なはれて來た.然し加速度の推定を唯單に墓石の巾と高さとの比のみから行ふ事は不十分であると考へる.即ち大地震後の現地調査にあたつて,我々は比の値が大でもその墓石自身の大きさが小さいために顛倒し,逆に比の値が小であるにも係らずその大きさが大であるために顛倒しなかつた例をしばしば發見するのである.昭和21年12月21日の南海地震の際にもこの例を海南市と木本市に於て發見し,これを解決する一つの方法を發表した.今回の今市地震に於ても今市町内の2ケ所(第2圖A,B)に於てこの例を見出し,前回の方法と同様な取扱ひによつて加速度を推定した.その結果として本震の週期を0.4秒とすると加速度は夫々2ケ所で912ガル及び949ガルとなつた.これらの値は被害程度から考へて一見過大のようであるが,然し次の理由から必ずしもそうでないと考へる.即ち加速度の値が大であつても,振幅が小(週期が短)であつて且っその加速度を持った振動が長く續かなければ,木造家屋のような建造物には大して被害はなくてすむと考へられる.事實野外調査の結果今回の地震は大振幅の振動は比較的早く減衰したらしい,又被害を受けた建造物は"大谷石"で積み上げたものや,又は石貼の石造建物が大多數であつて,木造家屋の被害は殆どなかつた事を考へ合せると以上の推定が甚しくは間違つてゐないと考へられる.以上の事から考へて將來大地震の加速度の推定にあたつては,墓石等の比のみから行ふ事は過小に推定する危險があるから,その墓石自身の大きさも考へに入れて行ふ必要があると考へる.又ある地點での加速度の大きさのみを問題とせず,その繼續時間とか,振幅(又は週期)の大きさ迄も考慮に入れるべきであると考へる.