著者
高橋 政代 JIN Zi-Bing
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

網膜色素変性(RP)は網膜視細胞の機能が障害される遺伝性の疾患群であり、遺伝性失明、また、60歳以下視覚障害者の最大の原因である。原因となる遺伝子変異は多数解明されているものの遺伝子診断を一般的な臨床検査とするまでにはまだまだ多くの課題が残っている。まず、全身疾患を伴わないRPについてこれまでに原因遺伝子が判明しているのは少なくとも40個と多数ある。RP患者の半分以上は弧発や遺伝形式不明であり、遺伝子診断や遺伝カウンセリングはほぼできないのが現状であり、多数の患者が遺伝子診断及び遺伝カウンセリングを受けられないのである。そこで、我々は効率とコストの面を考えながらdHPLCを用いた方法で遺伝形式を問わず全てのRP患者における網羅的な変異解析を試みた。約15%の弧発例や遺伝形式不明の患者で原因と思われる遺伝子変異を検出。結果はその内、18個が新規変異であった(Journal of Medical Genetics,2008)。効果的な治療法が現れない現状では、世界の研究者はES細胞やiPS細胞からin vitro分化してきた視細胞あるいは前駆細胞などを網膜細胞移植の重要なソースと期待しており、我々は世界初マウス、サル及びヒトES細胞から網膜視細胞への分化を効率よくできた(小坂田、高橋らNat Biotech 2008)。この成果により、視細胞分化誘導法及び移植細胞源に関する問題を解決できた。しかし、胚性幹細胞の生命倫理学的な配慮と移植における免疫拒否などの問題は残っている。そこで最近、皮膚などの組織体細胞から再生医療の大きな武器である「多能性幹細胞」を人工的に作ることに成功した(山中)。我々はこのips細胞を用いて視細胞の前駆細胞及び視細胞への分化に取り組み、ヒトips細胞から視細胞の分化に成功した(Hirami et al.,unpublished)。更に小分子を用いて新たな分化方法を効率よくできた(OsaRada F,Jin ZB et al.,unpublished)。これらの研究結果から、網膜色素変性症患者に対して遺伝子診断の臨床応用をでき、また、網膜再生の移植ソースとして視細胞分化を効率よくできた。