著者
Josep Antoni ALCOVER Pere DOVER
出版者
日本熱帯生態学会
雑誌
Tropics (ISSN:0917415X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.189-201, 2000 (Released:2009-01-31)
参考文献数
52
被引用文献数
5 6

MyotragusbalearicusBate1909 は地中海Baleares 諸島(スペイン領)の媛小化した偶締類ウシカモシカの一種で, 4500 年前に絶滅してしまった。その先祖は,約570 万年前の,地中海の乾燥気候時にBaleares 諸島を取り囲んだ塩性砂漠を横切ってMallorca 島に移入・定着した。その島峡型進化に沿って,Myotragus は大変に特殊で,派生した特徴を獲得した。このMyotragus は,比較的小型(成獣でも肩高約50cm) で,大変にたくましい四肢ー短い掌骨と指骨,ステレオスコープのように,見えることを容易にした前方に位置する眼寓,さらにその成獣では大変長冠歯で,常に成長を続ける犬歯を具えていた。Myotraglls の移動運動は,本土のウシ類のそれとは根本的に異なっていた。それは,ある限定された関節の形状にある。これらの解剖学的形状のために,それぞ、れ異なった骨と骨(大腿骨と腔骨,上腕骨と接骨,掌骨と指骨)の関節面での動きはかなり制限されていた。つまり,現在の本土の牛科の,食肉類の攻撃に対しての,逃れるためのジグザグの動きはbaleariclls では限られていたか,全く出来なかった。足根骨と中足骨との融合は,ジグザグの動きには不適である。更新世のBalearic 諸島における食肉類の不在は,Myotragus の運動システムの島棋的進化を明らかにする鍵となる。この成獣の個々の歯の中で,常に成長をつづける1 本の犬歯の存在は,この種の最も特徴的なところである。この犬歯は最近まで第2 乳門歯(dI2) であると解釈されてきた。しかし,その成獣における存在は,ネオテニーの過程で、起こった。未成熟のこの動物は,他の初生的犬歯を有する。第2 乳門歯(dI2) は,恐らくは,最初第1 乳門歯科(dI2) の脱落後に萌出し,誕生後の数週間,未成熟の歯列中に存在する。また未成獣においては,脱落する犬歯(dC) ,下顎第3 前臼歯( dP3) ,上額第2 乳臼歯(dP2) を具えている。これら3 つの歯は,二次的永久歯の生え変わりもなく,脱落する。Myotragus におけるこのように高度に改変された歯の獲得は,鮮新世に始まり,それは気候変化と植生変化に関係してきた。M.balearicus は大変有効な草食者で,硬い植物を食べることが出来た。糞石の花粉研究から,この動物は約98%) はツゲ属の一種Buxus balearicus を食べていた。今日,この植物はBaleares 諸島における遺存種的な分布をしている。しかし,後期更新世には, Mallorca 島とMenorca 島で、は普通であった。この植物は葉に大量のbuxine alkaloid を含むために,今日のウシ類にとっては大変有毒な種である。M.balearicus の絶滅は, Baleares 諸島への人類の到達後とみなされる。確固たる原因はわからないが,それは人類到達と関係があるに違いない。