著者
Joseph A. Vita
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.564-572, 2010 (Released:2012-01-31)
参考文献数
72

2型糖尿病は,重大かつ有病率が増加しつつある心血管系の危険因子である.危険因子および血糖の強化コントロールを行ってもリスクは持続する.糖尿病性血管疾患における主な機序は内皮機能障害の発現である.糖尿病における内皮機能障害の機序に関する理解を深めることにより,患者管理における新たなアプローチが促進されるものと考えられる.過去の実験的研究ではミトコンドリア機能障害が糖尿病およびインスリン抵抗性の発症機序と関連づけられた.ミトコンドリアにおける活性酸素腫 (ROS) 産生亢進,ミトコンドリアダイナミクスの異常,基質利用能の低下,ならびにヘム代謝の異常が内皮細胞機能障害および血管疾患につながる可能性がある.一酸化窒素がミトコンドリアにおけるエネルギー産生およびミトコンドリア形成の重要な制御因子であることから,これらの機序によりミトコンドリア機能および内皮細胞機能がさらに損なわれる悪循環が引き起こされると考えられる.ミトコンドリア機能の異常は患者の骨格筋において観察されているが,ミトコンドリア機能障害と血管疾患とのかかわりについてはヒトにおける糖尿病に関してほとんど解明されておらず,これらの関係を明らかにするためにさらに研究を重ねる必要がある.