著者
Yohko U. Katagiri Nobutaka Kiyokawa Junichiro Fujimoto
出版者
FCCA(Forum: Carbohydrates Coming of Age)
雑誌
Trends in Glycoscience and Glycotechnology (ISSN:09157352)
巻号頁・発行日
vol.13, no.71, pp.281-290, 2001-05-02 (Released:2010-01-05)
参考文献数
24
被引用文献数
5 5

志賀赤痢菌や腸管出血性大腸菌の産生するシガ毒素 (Stx) はリセプターである細胞表面のGb3に結合し、細胞傷害を誘発して細胞を死にいたらせる。ヒト腎臓尿細管由来腫瘍細胞ACHNやバーキットリンパ腫(BL) Ramos 細胞等の培養細胞において、この細胞死はアポトーシスであることが示されている。TritonX-100処理後ショ糖密度勾配遠心により得られる TritonX-100不溶性の低密度マイクロドメイン Raft にはGb3、スフィンゴミエリン、コレステロールが局在していて、 Stx 添加後の初期シグナル伝達機構を研究する上で格好の材料である。 Stx 感受性ACHN細胞の Raft では、 Gb3はSrc型キナーゼの Yes や Lyn と会合していた。 Raft タンパクは Stx添加後10分でチロシンリン酸化の亢進がみられ、30分で元のレベルに復帰した。Yes の酵素活性は3~10分で増強するので、Raft 内の Yes が Raft タンパクのチロシンリン酸化亢進の原因であると考えられる。しかしながら、Raft から回収される Yes は不活性型で、Stx 添加後も活性の増強はなかった。一方、Triton 可溶性分画の Yes は活性型で、Raft タンパクのチロシンリン酸化亢進と同様のカイネテックスで活性が変動した。Stx はGb3と共に細胞内に取り込まれると言われており、Yes もStx/Gb3複合体と一緒に挙動して細胞内で活性化を受け Triton に対する可溶性が上昇して Triton 可溶性分画に回収されたと考えられる。Gb3の結合に与るStx Bサブユニットだけでも Yes の活性化はおきるので、Stx のGb3への結合そのものが Yes の活性化を誘導し、更には細胞のアポトーシスにつながるものと考えられる。