著者
Jun-ichi Azuma Masahiro Sakamoto
出版者
FCCA(Forum: Carbohydrates Coming of Age)
雑誌
Trends in Glycoscience and Glycotechnology (ISSN:09157352)
巻号頁・発行日
vol.15, no.81, pp.1-14, 2003-01-02 (Released:2010-01-05)
参考文献数
38
被引用文献数
48 56

直径が3nm以下のセルロースミクロフィブリルを含むハイドロコロイドがヤドリギ、Viscum album L.、の果実およびバジルの種子の外珠皮に存在している。ヤドリギの場合では、セルロースミクロフィブリルは viscin と呼ばれる組織中に存在するロープ状の細胞中に細胞の長軸に対して直角の方向にコイル状にパックされている。一方、バジルの場合では、種子の外珠皮に存在する筒形の細胞内にコイル状にパックされている。これらの細胞が含水するに伴ってセルロースミクロフィブリルはほどけて周囲に広がっていく。ハイドロコロイドは一種のセルロース-ヘミセルロース性の多糖のコンポジットである。両ハイドロコロイドには(1,4)-結合したキシランとグルコマンナンの他に高度に分岐したアラビノガラクタンが含まれていることがメチル化分析の結果わかった。ハイドロコロイドの部分酸加水分解によりグルコマンナンタイプのヘミセルロースがセルロースと密接な関係にあり、酸性の多糖が水不溶性のセルロースをコロイド状態に保つ役割をしていると考えられる。
著者
Kenth Gustafsson Antoine Durrbach Robert M. Seymour Andrew Pomiankowski 隈本 洋介
出版者
FCCA(Forum: Carbohydrates Coming of Age)
雑誌
Trends in Glycoscience and Glycotechnology (ISSN:09157352)
巻号頁・発行日
vol.17, no.98, pp.285-294, 2005-11-02 (Released:2010-01-05)
参考文献数
48
被引用文献数
3 4

タンパク質や核酸と比べて、糖鎖は潜在的により大きな多様性を持つことができる。末端糖鎖の多様性は、バクテリアとヒトのように離れた種間にも、また同一種の中でも存在する。このような広い多様性が存在する理由については依然として不明である。この中には、多型性を示す糖鎖末端のグリコシレーションのうち最も良く知られた例であるABO式組織-血液型抗原がある。粘膜表面のABO抗原に対して各々の病原体が異なった結合性を示すことに着目して、感染症と血液型抗原との関係が多数報告されている。しかし、宿主の細胞と同様の組織-血液型抗原は、宿主によって決定される抗原としてウィルス上にも存在することがある。新たな宿主に侵入すると、ウィルスは自身の持つ組織-血液型抗原に特異的な自然抗体と遭遇するようである。これによってウィルスの直接的な中和が増強されるのみならず、ウィルスに対する特異的な免疫応答も増強されるものと我々は考えている。モデル化研究の際にこのような病原体との相互作用を考慮すると、ヒトの集団で特徴的に見られるABO血液型の頻度を2種類の選択圧によって説明することができ、さらに末端糖鎖の多型が進化してきた様式と原因を説明できる。
著者
A. Pusztai S. Bardocz 荒田 洋一郎
出版者
FCCA(Forum: Carbohydrates Coming of Age)
雑誌
Trends in Glycoscience and Glycotechnology (ISSN:09157352)
巻号頁・発行日
vol.8, no.41, pp.149-165, 1996-05-02 (Released:2010-01-05)
参考文献数
40
被引用文献数
43 90

食物に含まれるレクチンは、生理活性を持つ成分として重要であり、強力な外来性のシグナルとなる。食物中のレクチンの含量は大きく異なるが、消化管全体に劇的な影響を与え、消化管内の細菌の数、体の代謝、健康にも大きく影響する。レクチンの強い効果は、腸におけるタンパク質分解に対する抵抗性、腸の上皮細胞表面 (高等動物から下等生物に至るまで) に発現している内在性受容体に対する特異的、かつ高い化学反応性に由来する。経口であれ、非経口的であれ、取り込まれたレクチンは強力な免疫原となり、その生理作用が複雑にからみあって免疫機能に干渉することもある。しかし、レクチンの初期効果やバイオシグナルとしての能力は、糖鎖との特異的な化学反応の直接の結果である。こういった反応を想定すれば、レクチンを臨床医学的に、病原体、免疫系刺激物質、ホルモン調節因子、代謝活性化物質の阻害剤として利用したり、トランスジェニック植物における内在性の殺虫剤として利用するといったことが将来的に見込める。
著者
Kaori Sakurai
出版者
FCCA(Forum: Carbohydrates Coming of Age)
雑誌
Trends in Glycoscience and Glycotechnology (ISSN:09157352)
巻号頁・発行日
vol.27, no.153, pp.1-12, 2015 (Released:2015-01-23)
参考文献数
24
被引用文献数
2

細胞表層糖鎖は、発生過程、免疫反応、発がん過程など多様な生物機構において重要な役割を担っている。これらの過程に関わる細胞糖鎖の作用機序の一つとしてレクチンとの結合相互作用が知られる。しかし、多くの糖鎖–レクチン相互作用については現在までに明らかにされていない。糖鎖–レクチン相互作用は結合強度や特異性が低く、特異的なレクチンを同定するための一般的な方法論が確立していないためである。フォトアフィニティーラベリング法は、従来の方法では捕えがたい糖鎖–レクチン相互作用を解明する有用な方法として注目されてきた。本稿では、未知の糖鎖–レクチン相互作用の解明に向けた課題を挙げながら、これまでの糖鎖フォトアフィニティープローブの開発における進展について紹介した。
著者
Koichiro Miyajima Keiko Tanaka
出版者
FCCA(Forum: Carbohydrates Coming of Age)
雑誌
Trends in Glycoscience and Glycotechnology (ISSN:09157352)
巻号頁・発行日
vol.4, no.19, pp.457-463, 1992-09-02 (Released:2010-01-05)
参考文献数
9
被引用文献数
2 3

リポソームの凍結融解、および凍結乾燥に及ぼす糖の保護機構に関して、内水相マーカーの漏出、ラマンおよびNMR分光、熱分析 (DSC) を用いて研究した。凍結状態ではリポソームの表面は濃厚な糖水溶液またはガラスで覆われ、氷晶からの機械的破壊やリポソームの融合から保護される。単糖、二糖、そして三糖は、単糖ユニットあたり同じような保護作用を示した。乾燥過程では、レシチンの極性基であるリン酸基に水和した水分子は糖分子によって置換され、リポソームは液晶状態を保たれる。液晶状態の脂質膜は再水和過程で強い安定性を示した。二糖と凍結乾燥されたこのリポソームは、リン酸基と適当な分子の大きさを持つ糖分子との水素結合が重要であることを示している。
著者
Tadasu Urashima Jun Hirabayashi Sachiko Sato Akira Kobata
出版者
FCCA(Forum: Carbohydrates Coming of Age)
雑誌
Trends in Glycoscience and Glycotechnology (ISSN:09157352)
巻号頁・発行日
vol.30, no.172, pp.SE51-SE65, 2018-01-25 (Released:2018-01-25)
参考文献数
107
被引用文献数
108

It is now recognized that human milk oligosaccharides (HMOs) can function both as prebiotics and as decoy receptors that inhibit the attachment of pathogenic microorganisms to the colonic mucosa. They can also act as immune modulators and as colonic maturation stimulators in breast-fed infants. These functions could be mediated by biological interaction between a variety of HMOs and lectins including galectins, selectins and siglecs. There are more than 100 HMOs; they have structural units such as H type 1: Fucα1-2Galβ1-3GlcNAc, Lewis a: Galβ1-3(Fucα1-4)GlcNAc, Lewis b: Fucα1-2Galβ1-3(Fucα1-4)GlcNAc, Lewis x: Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAc, sialyl Lewis a: Neu5Acα2-3Galβ1-3(Fucα1-4)GlcNAc, and sialyl Lewis x: Neu5Acα2-3Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAc. It can be expected that these units may be utilized as tools for studies on the sugar-binding specificities of lectins including galectins, monoclonal antibodies, virus capsid proteins and bacterial toxins. This mini-review presents the dataset of comprehensive HMO structures, including recently clarified ones, in tabular form, for its utilization in such studies, including those of carbohydrate-binding specificity of galectins. In addition, this review introduces recent in vivo and clinical studies, which may be relevant to the biological functions and future utilization of HMOs.
著者
Yuka Kojima Anikó Várnai Vincent G. H. Eijsink Makoto Yoshida
出版者
FCCA(Forum: Carbohydrates Coming of Age)
雑誌
Trends in Glycoscience and Glycotechnology (ISSN:09157352)
巻号頁・発行日
vol.32, no.188, pp.E135-E143, 2020-07-25 (Released:2020-07-25)
参考文献数
95
被引用文献数
2

The group of filamentous fungi called wood rotting fungi comprises the main decomposers of woody biomass in forest ecosystems. These wood rotting fungi secrete various extracellular enzymes, such as cellulases and lytic polysaccharide monooxygenases (LPMOs) to degrade cellulose in wood cell walls. Interestingly, one particular group of wood-rotting fungi, called brown-rot fungi, lacks key cellulases for degrading crystalline cellulose, namely cellobiohydrolases (CBHs), with only a few exceptions. On the other hand, genes encoding LPMOs are widely conserved among brown-rot fungi, suggesting the importance of these enzymes in the brown-rot system. In this paper, after reviewing the wood degradation process by wood rotting fungi, we describe the history of the discovery of LPMOs and then review current knowledge on the characteristics of these enzymes. We then review our research on LPMOs derived from a brown-rot fungus and discuss possible physiological roles of LPMOs in the brown-rot system. Finally, we address the significance of LPMOs in the evolution of brown-rot system.
著者
Jagodige P. Yasomanee Alexei V. Demchenko
出版者
FCCA(Forum: Carbohydrates Coming of Age)
雑誌
Trends in Glycoscience and Glycotechnology (ISSN:09157352)
巻号頁・発行日
vol.25, no.141, pp.13-42, 2013 (Released:2013-01-31)
参考文献数
106
被引用文献数
14 30

この論文はこれまでの10年間に我々のグループが報告した合成法、戦略とその応用の概観である。主な論点は合成化学的グリコシル化のための新手法の開発である。新たな脱離基・保護基、金属配位による合成、グリコシル化におけるピコリニル保護によるアプローチを含む項目について述べる。効率的なオリゴ糖構築に向けた新戦略の創案についても述べる。新しく導入された方法、例えば、一時的な不活性化の概念、逆アームド–ディスアームド戦略、チオイミデート基のみによるオルトゴナル法とアクティブ–ラテント法、O-2/O-5の協調的効果について最近の成果から焦点を当てて紹介する。さらに、新しい自動化テクノロジー、すなわち、表面支持繰り返し糖鎖合成とHPLC支援糖鎖合成についても紹介する。
著者
Yoshiya Maegawa Shinichi Mochizuki Noriko Miyamoto Yusuke Sanada Kazuo Sakurai
出版者
FCCA(Forum: Carbohydrates Coming of Age)
雑誌
Trends in Glycoscience and Glycotechnology (ISSN:09157352)
巻号頁・発行日
vol.27, no.153, pp.13-29, 2015-01-25 (Released:2015-01-23)
参考文献数
64
被引用文献数
1

β-1,3-D-グルカンの一種であるシゾフィラン(SPG)はホモ配列のオリゴデオキシヌクレオチド(ODN)と水素結合や疎水性相互作用によってODN/SPG複合体を形成する。また、マクロファージや樹状細胞などの抗原提示細胞上には、β-1,3-D-グルカンの受容体であるデクチン-1が発現している。そのため、この複合体を用いることで、アンチセンスODN(AS-ODN)や非メチル化CpG配列を持ったODN(CpG-ODN)を抗原提示細胞に特異的に送達することが可能になると考えられる。実際、AS-ODN/SPG複合体をリポ多糖誘導型マウス肝炎モデルに投与したとき、炎症を抑えることができた。また、カニクイザルにCpG-ODN/SPG複合体をインフルエンザワクチンのアジュバントとして投与したとき、高い抗体価を促すことができた。以上より、SPGは特に抗原提示細胞を標的にした薬物送達システムのキャリアとして有用であると考えられる。
著者
畠山 智充 郷田 秀一郎 海野 英昭
出版者
FCCA(Forum: Carbohydrates Coming of Age)
雑誌
Trends in Glycoscience and Glycotechnology (ISSN:09157352)
巻号頁・発行日
vol.28, no.161, pp.J55-J60, 2016-05-25 (Released:2016-05-25)
参考文献数
23

タンパク質毒素は標的細胞膜脂質との特異的な相互作用を介して非常に効率的に毒性を示す。細菌由来のタンパク質毒素の中には、標的細胞に結合した後、細胞膜中でオリゴマー化することにより膜貫通ポアを形成し、結果として細胞死を引き起こすものが存在するが、このようなポア形成メカニズムは、真核生物由来の溶血性レクチンの作用とも共通する。我々はナマコの一種であるCucumaria echinataから単離された溶血性レクチンの糖結合活性およびオリゴマー化活性に関して詳細に検討し、そのモノマーおよびオリゴマー状態の両者における構造解析を行った。その結果、このレクチンのポア形成過程において大きなコンフォメーション変化を生じることが明らかになった。これらの結果は、細胞表面上における糖質ならびに脂質との相互作用によって引き起こされるタンパク質の著しい構造変化の例を示すものである。
著者
B. A. Fenderson 山形 達也
出版者
FCCA(Forum: Carbohydrates Coming of Age)
雑誌
Trends in Glycoscience and Glycotechnology (ISSN:09157352)
巻号頁・発行日
vol.5, no.24, pp.271-285, 1993-07-02 (Released:2010-01-05)
参考文献数
76
被引用文献数
3 5

着床とは哺乳動物の初期胚が子宮壁に接着する発生上の複雑な過程である。ステロイドホルモンおよびサイトカインの影響下で非接着性の子宮上皮が接着性に変わることが重要である。子宮壁の接着性が変わる間に、子宮上皮の糖脂質や糖タンパク組成の変化、上皮表面の複合糖質分子の大きさや荷電の変化、内腔液に分泌される糖タンパク質のパターンの変化などを含む糖鎖の変化が沢山見られる。胚でも着床に先立って糖抗原の発現が大きく変わる。これらの発生特異的な変化が胚盤胞の子宮への接着の時間や場所を調節しているのかも知れない。着床に伴う糖鎖の役割について幾つかの検証しうる仮説が出されていて、糖鎖-タンパク質相互作用と、糖鎖-糖鎖間相互作用のどちらも有力である。
著者
K.L. Carraway N. Fregien 伊藤 ユキ
出版者
FCCA(Forum: Carbohydrates Coming of Age)
雑誌
Trends in Glycoscience and Glycotechnology (ISSN:09157352)
巻号頁・発行日
vol.7, no.33, pp.31-44, 1995-01-02 (Released:2010-01-05)
参考文献数
84
被引用文献数
20 19

ムチンは高度にOグリコシル化された糖タンパク質で、細胞外からの作用物質に対する細胞の保護に関与していると考えられている。ムチンは、分泌型ムチンと膜結合型ムチンの二種類が知られている。ほとんどのムチンは、分子の中央に縦列反復配列 (tandem repeat) 構造の領域を持つが、この部位はセリンとスレオニンに富み、ムチンの種類により長さが大きく異なっている。多くのムチンにはシステインに富むドメインもある。反復配列は、ひとつのムチン分子中では、ヒトMUC1タンパク質分子のように、多くの場合保存されている。しかし二種間では、例えば、マウスのMUC1タンパク質とヒトMUC1タンパク質の反復配列のように、ほとんど保存されていない。ムチンの多くは反復配列の数に違いがあるために多型であり、ムチン遺伝子の転写産物は多くの場合不均一である。ムチンは組織特異的に発現しているものが多いが、MUC1やMUC2のようにいくつもの組織でみられるものもある。一つの組織が一つ以上のムチンを発現している可能性もある。これまでに得られた範囲の研究からも、ムチンの発現制御は複雑であることがわかる。膜結合型ムチンは細胞間相互作用を調節することにより発生や腫瘍の進行に関与しているのではないかと考えられている。ある種のムチンのシステインに富むドメインは、細胞増殖の制御に役割を果たしている可能性もある。組み換えDNAプローブを用いた研究が、このムチンという複雑な分子に対する理解を大いに深めることは疑いない。
著者
Naoki Itano
出版者
FCCA(Forum: Carbohydrates Coming of Age)
雑誌
Trends in Glycoscience and Glycotechnology (ISSN:09157352)
巻号頁・発行日
vol.16, no.89, pp.199-210, 2004-05-02 (Released:2010-01-05)
参考文献数
55
被引用文献数
6 6

ヒアルロン酸は生体に広く分布している主要な細胞外マトリックス成分として、組織の構造維持に重要な役割を果たしている。この糖鎖は支持構造としての機能以外にも、受容体との相互作用により細胞内シグナル伝達系を活性化して細胞の増殖や運動、分化など動的な細胞活動を調節している。ヒアルロン酸は、その糖鎖合成異常が癌の進展と密接に連動して認められることから、大きな注目を集めている。近年、ヒアルロン酸合成酵素遺伝子の発現を人為的に改変する一連の試みにより、細胞の癌化促進に働くヒアルロン酸の役割が明らかにされつつある。本総説は、ヒアルロン酸合成の機構解明に向けた最近の知見を引用しつつ、ヒアルロン酸合成と癌の進展との密接な関係を概説する。そして、ヒアルロン酸合成阻害に基づいて癌の進展を阻止する治療薬開発の可能性についても言及する。
著者
Chihiro Sato Ken Kitajima
出版者
FCCA(Forum: Carbohydrates Coming of Age)
雑誌
Trends in Glycoscience and Glycotechnology (ISSN:09157352)
巻号頁・発行日
vol.23, no.133, pp.221-238, 2011 (Released:2011-11-02)
参考文献数
52
被引用文献数
3 5

シアル酸 (Sia) がα2, 8結合で8-400残基縮重合したポリシアル酸構造は、胎仔期の脳において神経細胞接着分子 (NCAM) 上に一過的に発現する。また成体脳では、海馬や嗅球などの神経の再構築が行われている部位で発現が存続している。ポリシアル酸は、自身の大きな負電荷や立体障害により、細胞の接着を阻害するため、細胞接着の負の制御分子として細胞移動や神経突起の伸長、軸索の可塑性を促進し、正常な神経回路の形成や神経発生に関わるとされてきた。近年我々はポリシアル酸が神経の機能を制御するBDNF、FGF2、ドーパミンのような生理活性因子と直接相互作用し、それらの因子を保持して細胞表面濃度を調節することによって細胞機能を制御する新たなポリシアル酸の機能を見いだした。また、ポリシアル酸構造の生合成を司るポリシアル酸転移酵素(STX)について、統合失調症患者に報告されたその翻訳領域におけるSNPは、酵素活性を顕著に低下させ、それを反映するポリシアル酸構造の質と量を低下させ、そのことによりポリシアル酸の保持機能が失われることを明らかにした。このポリシアル酸構造の破綻が統合失調症をはじめとするポリシアル酸量の変動が認められる精神疾患や神経変性疾患患者のポリシアル酸による分子保持機能に影響を与えている可能性がある。
著者
Joke Ouwendijk Leo A. Ginsel Jack A.M. Fransen 山形 貞子
出版者
FCCA(Forum: Carbohydrates Coming of Age)
雑誌
Trends in Glycoscience and Glycotechnology (ISSN:09157352)
巻号頁・発行日
vol.9, no.46, pp.223-232, 1997-03-02 (Released:2010-01-05)
参考文献数
95

小腸はデンプンからの生成物やショ糖を分解する重要な場所である。スクラーゼ-イソマルターゼ (SI) は小腸の上皮細胞の刷子縁に発現している膜貫通II型糖タンパク質である。SIの特殊な構造と独特な発現の仕方が、いくつかの細胞生物学的反応についてのモデルとして理想的なタンパク質にしている。この総説では次のトピックスをとりあげようと思う。i) SIの独特な構造、ii) このタンパク質の独特な発現の仕方とその制御、iii) SIが膜の頭頂部へ輸送される際の頭頂部輸送機構の役割、iv) 先天的SI欠損症の原因となる輸送をできなくする機構、v) 細菌毒素がSIに結合する時に起こる情報伝達カスケードにおけるSIの役割。
著者
Kazuhisa Sugimoto Takahisa Nishimura Takashi Kuriki
出版者
FCCA(Forum: Carbohydrates Coming of Age)
雑誌
Trends in Glycoscience and Glycotechnology (ISSN:09157352)
巻号頁・発行日
vol.19, no.110, pp.235-246, 2007-11-02 (Released:2008-12-12)
参考文献数
38
被引用文献数
5 10

私たちはフェノール性水酸基への糖転移反応を効率的に触媒する新規酵素を得ることに成功した。本酵素、すなわちハイドロキノン配糖化酵素はα-アノマー選択的な配糖化反応を触媒した。さらに本酵素を用いる反応は、生成物である4-hydroxyphenyl-O-α-D-glucopyranosideを非常に高い収量で得ることができ、産業的な利用に十分なレベルを充たしていた。本酵素反応によりコウジ酸やカフェ酸をはじめ多くのフェノール化合物が配糖化されたがアルコールは配糖化されなかった。さらに私たちは本酵素反応により得られた配糖体の一種である4-hydroxyphenyl-O-α-D-glucopyranoside (α-アルブチン) の応用研究に取り組んだ。α-アルブチンはヒト細胞由来チロシナーゼを強力に阻害し、その阻害活性は構造異性体である4-hydroxyphenyl-O-α-D-glucopyranoside (アルブチン) よりも非常に高いものであった。私たちは数種類のα-アルブチン配糖体とアルブチン配糖体を酵素合成した。得られた配糖体のチロシナーゼ阻害活性の比較結果から、分子の大きさとベンゼン環周辺の静電ポテンシャルがハイドロキノン配糖体のヒトチロシナーゼ阻害作用に大きく影響を与えることが示唆された。さらにα-アルブチンのメラニン生合成に対する阻害効果についても検討を行った。α-アルブチンは細胞毒性を示さない濃度域においてヒトメラノーマ細胞やヒト皮膚3次元モデルのメラニン生成を濃度依存的に抑制した。上記の結果よりα-アルブチンは有効かつ安全な化粧品用美白素材であることが示唆された。