著者
青木 順子 Junko Aoki
出版者
安田女子大学
雑誌
安田女子大学紀要 = Journal of Yasuda Women's University (ISSN:02896494)
巻号頁・発行日
no.46, pp.31-50, 2018-02-20

2017年1月トランプ政権誕生後、「代替的事実」や「偽ニュース」の言葉で、政権側から公然と事実と異なることが事実として提示される、または、都合の悪い事実は信用ならないものとして貶められる、という驚愕するような言動が民主国家の代表とされてきた米国の政権でも通用することを世界は見せつけられることになる。多種多様なメディアの出現によって、虚構世界と現実世界の物語の境界が曖昧になっている今、他者のメディア表象に拘ることへの尊重が一層必要とされている。社会で優位にあるグループであれば「気にかけない」として済ませられるかもしれない出来事について、一つひとつに「拘る」ことで権利を主張する必要がある少数派が社会には存在する。「我が国・自国への愛国心」、「我々・自国中心」、「テロリストの彼ら」、「犯罪者の彼ら」と、「我々だけ」を尊重し、他者「彼ら」への敵対心や恐怖のみを煽り立てる乱暴なレトリックが民主国家の政治の権力側から公然と示され得る時、社会で少数派の拘りの行為が抑圧される可能性は高くなっているのである。ポピュラーカルチャーに見える「ホワイトウォッシュ」から大国の政権による「壁を作る」政策まで、全て関係し合い、相互に影響しないではいられないグローバル化した世界を私達は生きている。ジジェクの言う「人間の顔をもったグローバル資本主義」の実現のために、一人ひとりが拘り、今自分に出来ることを丁寧に問い、真摯な他者とのコミュニケーションを通して実現しようとする、そうした人々を育てることが異文化教育には要求されているのである。
著者
青木 順子 Junko Aoki
出版者
安田女子大学
雑誌
安田女子大学紀要 = Journal of Yasuda Women's University (ISSN:02896494)
巻号頁・発行日
no.46, pp.31-50, 2018-02-20

2017年1月トランプ政権誕生後、「代替的事実」や「偽ニュース」の言葉で、政権側から公然と事実と異なることが事実として提示される、または、都合の悪い事実は信用ならないものとして貶められる、という驚愕するような言動が民主国家の代表とされてきた米国の政権でも通用することを世界は見せつけられることになる。多種多様なメディアの出現によって、虚構世界と現実世界の物語の境界が曖昧になっている今、他者のメディア表象に拘ることへの尊重が一層必要とされている。社会で優位にあるグループであれば「気にかけない」として済ませられるかもしれない出来事について、一つひとつに「拘る」ことで権利を主張する必要がある少数派が社会には存在する。「我が国・自国への愛国心」、「我々・自国中心」、「テロリストの彼ら」、「犯罪者の彼ら」と、「我々だけ」を尊重し、他者「彼ら」への敵対心や恐怖のみを煽り立てる乱暴なレトリックが民主国家の政治の権力側から公然と示され得る時、社会で少数派の拘りの行為が抑圧される可能性は高くなっているのである。ポピュラーカルチャーに見える「ホワイトウォッシュ」から大国の政権による「壁を作る」政策まで、全て関係し合い、相互に影響しないではいられないグローバル化した世界を私達は生きている。ジジェクの言う「人間の顔をもったグローバル資本主義」の実現のために、一人ひとりが拘り、今自分に出来ることを丁寧に問い、真摯な他者とのコミュニケーションを通して実現しようとする、そうした人々を育てることが異文化教育には要求されているのである。
著者
青木 順子 Junko Aoki
出版者
安田女子大学
雑誌
安田女子大学紀要 = Journal of Yasuda Women's University (ISSN:02896494)
巻号頁・発行日
no.48, pp.125-136, 2020-02-28

2018年後半から2019年前半にかけてのアカデミー賞作品賞を受賞した映画、米国NBC局のキャスターの「ブラックフェース」発言等、社会で論争を引き起こした例を基にして、「拘り」の表明、「拘り」に対する反応、反論、言い訳に見えてくるものを検証し、「拘り」の持つ性質と意義について考察をしている。自らの「拘り」への参加、他者の「拘り」の行為の受容、そして異なる意見の表明によって互いに真摯な応答の過程がなされていく社会を尊重し、「拘り」の表明によって、さらに異なる意見が自由に意見交換されるような空間――これは、カントのいう公共圏でもあり、アーレントが、レッシングの考えた真理の存在、「真理は、言語を通して人間化されるところのみ存在する」について述べたような、多様性を持つ人間が「真理だと思っているもの」を表明し語ることでのみ作り得る「唯一の人間的な空間」でもある。他者のメディア表象への「拘り」を尊重し、真摯に応答する行為を通して、「一人ひとりが・拘り・今・自分に・出来ることを、丁寧に問い・声をあげ、かつ、耳を傾け・異なる他者とのコミュニケーションを続け・それを通して得た真理を・実現しようとする」という異文化コミュニケーション教育の目標は達せられるのである。