- 著者
-
中尾 欣四郎
KWETUENDA Me
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冨永 裕之
知北 和久
- 出版者
- 北海道大学
- 雑誌
- 国際学術研究
- 巻号頁・発行日
- 1990
安定な密度成層状態にある深湖で、深水層の熱エネルギ-や溶存成分がどのような機構で、表水層へ拡散・移流され、安定状態を保っているのか未だ不明である。深水層の擾乱機構を明らかにするため、世界有数の深湖であるアフリカ、リフトバレ-のキブ湖、タンガニ-カ湖を調査対象として選んだ。昨年度は9月〜10月に、主としてキブ湖について予備的調査を実施した。キブ湖は中央アフリカ、リフトバレ-の赤道地帯で、南緯2度、東経29度に位置する。流出河川のルジジ川は湖の南端から流出し、約150km下流のタンガニ-カ湖に注いでいる。湖は谷を横切る溶岩流より塞止められ、約1万年前に形成されたと云われている。塞止湖としての特徴はリアス式の湖岸線に示されている。湖面積は2,300km^2、湖を含む流域面積は7,300km^2で、最大水深485m、平均水深240mと落ち込みの激しい湖盆形状はリフト湖の特徴の一つである。タンガニ-カ湖畔のウビラ気象観測所における記録(1986年)によれば、年平均気温は24.7℃で、月平均気温の平均偏差は0.3℃で年較差の少ない熱帯性気候の特徴を示している。湖は水温構造から見て熱帯湖であり、表水層の深度は60〜90mで、この下面で、22.8℃〜22.9℃まで低下した水温は、これ以深では、湖底までゆるやかに上昇し、450m水深で、25.98℃を示している。なお、表水層下の深水層水温は経年的変動がほとんど認められず、極めて安定したメロミティック傾向を示している。湖の水質はC1^<ー1>、30〜68ppm、SO_4^<ー2>、2〜10ppmと著しく少く、Alkalinity(Na+K)は、表層水の630ppmから、底層水の3,200ppmと著しく高い。また、表面水のPH値は9.2の強アルカリ性を示し、他のアフリカ、リフト湖と同様にアルカリ営養湖の特性を示している。表水層下面から湖底へと水温が上昇しているにもかかわらず、安定した密度成層状態を保持している最大の要因は、深水層に溶存する二酸化炭素(CO^2)とメタン(CH_4)の存在である。ただ、両ガスともに、深水層の水圧下では不飽和状態にあり、溶解度は30%を越えない。予備調査で試作された圧力型特殊採水器により採水された深水層(水深400m)では、常圧下で試水(2.19l)の約2倍の二酸化炭素およびメタンの混合ガス(4.05l)が発泡した。混合ガスの存在比は、二酸化炭素が74%、メタンガス、18%であった。万一、深水層の水塊が表水層に上昇することになれば、発泡した気泡の上昇により、連鎖反応的で急激な湖面からのガス突出が起ることになる。この時、重い二酸化炭素ガスから成る無酸素雲は下方に流れ下りニオス湖のガス突出のような重大災害が生じることになる。ただ、現状のガス溶解度では深水層の小擾乱が発泡を起す可能性は極めて少い。ただ、深水層の水圧下で二酸化炭素、メタンガスが飽和状態に達したとすれば、小擾乱で減圧による発泡が起り、ガス突出に至る。湖底から供給される二酸化炭素、メタンガスを表水層へ拡散、移流する機構が分子拡散と熱塩対流のみで行なわれているか否かを明らかにすることは深湖深水層の擾乱機構の研究のみならず、ガス突出予測においても肝要な点である。STDプロファイラ-により測定された水温、電気伝導度の鉛直分布を見みると、60〜90m以深の深水層において、活発な熱塩対流を示す水温分布の階段構造が見られる。湖の擾乱の著しい等温層は、厚いもので40mを越え、水深200mに達している。この拡散機構が火山活動の変化に伴う二酸化炭素供給変動を解消し、深水層におけるガス溶存量を安定に保っているのであろうか。1991年度のキブ湖本調査とともに、1992年度に実施するタンガニ-カ湖との比較研究が必要である。