著者
Kannapa Pongponrat 石井 香世子
出版者
東洋英和女学院大学現代史研究所
雑誌
現代史研究
巻号頁・発行日
no.11, pp.1-20, 2015-03-31

本稿の目的は、災害弱者としての外国籍市民の置かれた状況を、現地調査をもとに明らかにすることにある。既存の在日外国人に関する研究の文脈では、在日タイ女性を対象とした研究は少なく、数少ない既存研究もタイ女性を人身売買の被害者として扱うか、もしくは蓄積の著しい在日フィリピン女性をめぐる議論を援用して扱うことが多かった。しかし東日本大震災とそれに続いた津波被害を経験しながらも引き続き被災地で生活を送る在日タイ女性への調査結果からは、調査対象となった在日タイ女性たちはそもそも被災者となる以前から、既存研究が在日フィリピン女性について指摘してきた相互扶助ネットワークや英語を活かした生存戦略に乏しく、日本人家族と暮らしながら日本社会のなかで周縁化される傾向が強かったことが浮かび上がった。この周縁化はとくに言語や情報収集の面で顕著であったといえる。この周縁性がひとたび被災者となり仮説住居で暮らすようになった場合、情報収集・情報発信の両面において深刻化した。この結果、在日タイ女性たちは、被災者としての情報収集・発信における困難と外国籍市民としての困難との、「二重の脆弱性」に晒される状況に陥っていると言うことができるのではないだろうか。