著者
安井 寿枝 Kazue Yasui
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.113, pp.119-134, 2021-03

本稿は、『白樺』創刊メンバーである里見弴に注目して、一人称小説の地の文において、どのような人称代名詞が使われているかを分析したものである。白樺派の一人称小説については、「自分小説」といわれるように「自分」を使うのが特徴だが、里見は「自分」をいっさい使っていないのが特徴である。里見が使っている人称代名詞は、「私」「俺」「予」「僕」「わたし」「あたし」であり、「私」の使用がもっとも多い。「私」が使用されているものは、語り手が過去を回想する自叙伝的な小説であり、過去の自分自身を客観的に描き出すために、「私」が選択されており、「私」以外の人称代名詞が使われている「荊棘の冠」や「喜代女日記抄」は、自叙伝的な小説とはいえず、『白樺』以前の一人称が作者と別人の一人称小説と同じである。一方「無題」は、「俺」という人称代名詞を使うことで、里見自身の内面を赤裸々に表現することに成功した唯一の一人称小説だといえる。
著者
安井 寿枝 Kazue Yasui
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.116, pp.87-104, 2022-09

本稿は、高浜虚子の三作品「風流懺法」「斑鳩物語」「大内旅宿」にみられる京都府方言・奈良県方言・大阪府方言の特徴を確認し、虛子の各方言に対する意識を考察するものである。それぞれの方言が特徴的に用いられているのは、尊敬語表現・文末表現・接尾辞であった。尊敬語表現の助動詞では、京都府方言は「お~やす」が、大阪府方言は「やはる」が特徴であり、奈良県方言は両方言の特徴を併せ持っていた。また、「なはる」は京都府方言としては避けられる傾向にあり、大阪府方言としては命令表現で使われていることがわかった。文末表現では、京都府方言は「え」「おす」「どす」が、奈良県方言では「なー」「おます」「だす」が、大阪府方言では「おます」「だす」が特徴であった。一方で、「です」のように共通語と同じ語形は避けられていることが予想された。接尾辞では、大阪府方言の特徴として「どん」が使われていた。