- 著者
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安井 寿枝
Kazue Yasui
- 出版者
- 関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
- 雑誌
- 研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
- 巻号頁・発行日
- vol.113, pp.119-134, 2021-03
本稿は、『白樺』創刊メンバーである里見弴に注目して、一人称小説の地の文において、どのような人称代名詞が使われているかを分析したものである。白樺派の一人称小説については、「自分小説」といわれるように「自分」を使うのが特徴だが、里見は「自分」をいっさい使っていないのが特徴である。里見が使っている人称代名詞は、「私」「俺」「予」「僕」「わたし」「あたし」であり、「私」の使用がもっとも多い。「私」が使用されているものは、語り手が過去を回想する自叙伝的な小説であり、過去の自分自身を客観的に描き出すために、「私」が選択されており、「私」以外の人称代名詞が使われている「荊棘の冠」や「喜代女日記抄」は、自叙伝的な小説とはいえず、『白樺』以前の一人称が作者と別人の一人称小説と同じである。一方「無題」は、「俺」という人称代名詞を使うことで、里見自身の内面を赤裸々に表現することに成功した唯一の一人称小説だといえる。