著者
高玉 和子 Kazuko TAKATAMA
巻号頁・発行日
vol.26, pp.51-56, 1993-03-03

これまで述べてきたように, 虐待親は成人した後の生活体験を中心に洞察した結果, 人格的未成熟さや精神的に問題があることが指摘できる。また, 虐待親の生育歴に着目し, 幼児期における母性体験や家庭教育によってどのような人格形成がなされるか, その過程をたどっていくことも重要である。虐待親は子ども時代における人格形成の過程で適切な養育や愛情を与えられずに育った者が多く, 決して家庭的に幸福であったとは言いがたい。また, 家族との信頼関係が築かれていないため, 成人した後も, 対人関係につまづきが生じてくることになる。特にそのなかでも, 家庭的に問題があったのみならず, 虐待親自身も, 自分達が子どもの時に虐待を受けていた事実が明らかになり, まさに, 児童虐待の悪循環ともいえる養育パターンが繰り返されていることもある。次に, 虐待親の性差に関して述べると, 父親による虐待は母親の場合よりも手口が残酷であり, 虐待する動機も父親自身の養育観に基づき, かなり厳しいしつけの一環として位置づけられていることが多い。一方, 母親による虐待は, 近年核家族のため, 母親が出産, 育児という重要な役割を自力でこなさなくてはならない上, 日常子どもと接する時間が長く, 虐待の頻度も増すと考えられる。貧富に関わりなく, ストレス度が高いほど, 虐待を引き起こしやすい。新田康郎等が, 精神的問題をもつ虐待する母親達を「対策困難なグループ」と見ていることからもわかるように, 人格的に成熟していない親像が浮かび上ってくる。また父親と母親双方に見られる特徴としての精神疾患は, 虐待と密接な相関関係にあると考えられるだろう。このような精神的, 心理的側面に加え, 住環境の不備, 家族機能の弱体化や公的福祉サービスの不十分さが, ストレス度を増す要因ともなっている。以上から, 欧米, 日本を問わず, 虐待親の性格は間接的には社会的, 経済的要因に抱束されながらも, 直接的で, より一般的には個人の精神的, 生育的要因が大きく作用して形成されているという結論になる。