著者
窪 幸治 Kohji Kubo 岩手県立大学総合政策学部
出版者
岩手県立大学総合政策学会
雑誌
総合政策 = Journal of policy studies (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.201-212, 2014-03-01

本件は、東日本大震災発生時のマンション内の水漏れ事故につき、居住者が区分所有者の加入する個人財産総合保険保険に付された個人賠償責任総合補償特約に基づき保険金支払を求めたところ、保険会社が地震免責条項の適用を主張したという事案である。第1 審(東京地判H23・10・20)は、他の免責条項との均衡等から、同条項にいう「地震」を通常予見しえない「巨大かつ異常な地震」に限定し、保険会社の免責を認めなかった。本判決(東京高判H24・3・19)は「地震」につき、(1)文理解釈、(2)地震保険法との均衡、(3)他の免責事由との関係、(4)保険実務への考慮等から「自然現象としての地震と相当因果関係のある損害はすべて地震免責条項の対象となるのが相当」と判示した。客観的解釈を強く要請される約款解釈からすれば、当該判示は正当である。しかし、本件は、通常の耐震性を欠くこと(「瑕疵」)を責任原因とする、保険事故たる土地工作物責任発生及び、地震免責条項適用に係る相当因果関係の検討が不十分な点で問題がある。確かに、当事者は因果関係を争っていないが、地震と瑕疵の原因競合及び割合的な処理の可能性を検討すべき事案であったといえよう。