著者
窪 幸治
出版者
岩手県立大学総合政策学会
雑誌
総合政策 = Journal of policy studies (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.241-260, 2016-03

本件は、事業者が、クロレラを含有するいわゆる健康食品の販売のため配布するチラシに、薬効を有するかのように示す表示をしていることにつき、適格消費者団体が景品表示法10条1号(平成28年4月1日以降は30条1項1号)に基づく差止請求を提起した初めての訴訟であり、団体(京都消費者契約ネットワーク)が勝訴している(平成27年1月23日、事業者側が控訴、11月現在大阪高裁に係属中である)。本件判決は、健康食品の広告表示に関して、医薬品でないにもかかわらず薬効を示すものにつき、旧薬事法によって形成された一般消費者の医薬品への信頼をもって、実際より著しく優良であるとの誤認をもたらすと判断している点に意義を有する。この判断が維持されれば、健康食品の効能効果に付き科学的な証明が不要となり、事業者に対して合理的根拠の提出を強制する術をもたない、適格消費者団体による差止請求の可能性を広げうるものと期待されるからである。本稿では、本判決の論理を分析し、その射程を検討した。今後、保健機能を標榜する健康食品に関しては、特定保健用食品等に加え、平成27年4月1日から始まった機能性表示食品制度はその利用が容易であることに鑑みると、同制度を利用しない健康食品に関しては、本判決の論理が及ぶ可能性(機能性があるとの誤認の推認)がありうる。
著者
窪 幸治 Kohji Kubo 岩手県立大学総合政策学部
出版者
岩手県立大学総合政策学会
雑誌
総合政策 = Journal of policy studies (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.201-212, 2014-03-01

本件は、東日本大震災発生時のマンション内の水漏れ事故につき、居住者が区分所有者の加入する個人財産総合保険保険に付された個人賠償責任総合補償特約に基づき保険金支払を求めたところ、保険会社が地震免責条項の適用を主張したという事案である。第1 審(東京地判H23・10・20)は、他の免責条項との均衡等から、同条項にいう「地震」を通常予見しえない「巨大かつ異常な地震」に限定し、保険会社の免責を認めなかった。本判決(東京高判H24・3・19)は「地震」につき、(1)文理解釈、(2)地震保険法との均衡、(3)他の免責事由との関係、(4)保険実務への考慮等から「自然現象としての地震と相当因果関係のある損害はすべて地震免責条項の対象となるのが相当」と判示した。客観的解釈を強く要請される約款解釈からすれば、当該判示は正当である。しかし、本件は、通常の耐震性を欠くこと(「瑕疵」)を責任原因とする、保険事故たる土地工作物責任発生及び、地震免責条項適用に係る相当因果関係の検討が不十分な点で問題がある。確かに、当事者は因果関係を争っていないが、地震と瑕疵の原因競合及び割合的な処理の可能性を検討すべき事案であったといえよう。
著者
窪 幸治
出版者
岩手県立大学総合政策学会
雑誌
総合政策 = Journal of policy studies (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.223-236, 2015-03-01

本稿は、拡大を続ける電子商取引のプラットフォームである、インターネットショッピングモールサイトの運営者が、同サイトに出店するショップの顧客に対していかなる義務を負うかについて、若干の検討を加えることを目的とする。すなわち、従来、モール運営者はショップと顧客の取引がなされる「場」を提供する者であると理解され、あまり認識されてこなかった顧客との利用契約上の義務について検討する。結論としては、ショップ-顧客の取引がモール運営者の構築・提供するシステム利用を前提とすること、非対面であるインターネット取引の特性の考慮から、モール運営者には顧客とのシステム利用契約上の義務として、一定の技術水準確保及びショップへの監督を通じ、安全な取引環境を整備する義務を観念しうると考える。具体的には、契約の相手方選択の自由を損なわないよう契約過程を管理し、情報の正確性等に疑義が生じている場合に、ショップに対して監督する義務などが指摘できる。
著者
窪 幸治
出版者
岩手県立大学
雑誌
総合政策 (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.213-222, 2014-03

本稿は、復興過程における土地の利用調整のための制度の今後の発展可能性を探るため、現行法制上の限界がどこにあるかを導き、立法上の指針を示すため、憲法上の制約、現行各法制とのバランス、東日本大震災における都市法制の刷新について概観した。まず、憲法29条は公共の福祉への適合という制約の下、財産権の形成の自由を立法府に与え、それを具体化した土地基本法は、土地の特性を踏まえた適正・計画的利用、開発利益の社会還元や受益者負担を土地に関する原則として掲げており、未だ抽象的ではあるが、土地利用調整の可能性は相当広いものと言える。さらなる具体化には、従来の法制における規制の目的、程度、手続保障等との均衡をとる必要があり、各法制から今後の検討素材を抽出した。都市法制の刷新としては、復興特区法により都市計画がない地域、農業利用が中心となる農業振興地域も含め、復興ニーズを起点とした復興整備計画の下、土地の計画的利用の途を開いた点が評価されよう。もっとも、復興まちづくりを住民主導で果たすための集団的な自己決定や、個人への直接的な支援をもたらすための生存権の論理(憲法25条)の強調など、残された課題が浮かび上がった。