著者
板谷 宏彬 Iguchi Masanori Koide Takuo Usami Michiyuki Mizutani Shutaro Kurita Takashi
出版者
泌尿器科紀要刊行会
雑誌
泌尿器科紀要 (ISSN:00181994)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.p195-198, 1975-03

急性腎不全をきたす疾患のうち,両側性腎皮質壊死は,妊娠後期における胎盤早期剥離,敗血症,外傷,および術後などに発生するまれ,かっきわめて予後不良な疾患である. 1886年に最初の報告をみて以来,現在まで約400例の報告をみるが,生存しえたのは24例で,しかもそのほとんどが血液透析をうけたここ数年間の患者である。またその腎機能回復率は20%以下ときわめて不良である。急性両側腎皮質壊死の発生機序に関しては不明な点が多いが、 その腎組織学的検索で、はフィプリン折出による腎小葉間動脈の栓塞がおもにみられ,腎皮質の広範な壊死を認める反面,腎髄質はほとんど正常に保たれている。同時に臨床的には出血傾向と全身臓器の小動脈の栓塞を認め, DIC (disseminated intravascular coagulation) との関連性が重要視されている。今回,われわれは39歳の高齢初産婦にみられた胎盤早期剥離後,急性腎不全をきたし, 6カ月間の血液透析ののち,同種腎移植を施行され成功したが,その際えられた腎組織は両側性腎皮質壊死と診断された症例を経験したので、その臨床経過を報告するとともに,急性両側性腎皮質壊死の発生機序,診断,予後などにつき考察を加えた。