著者
中島 正俊 谷口 玄 Kunawarote SITTHIKORN 保坂 啓一 高橋 真広 岩本 奈々子 岸川 隆蔵 田上 順次
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.396-402, 2008-08-31 (Released:2018-03-30)
参考文献数
26

う蝕象牙質へのレジンの接着性能は,健全象牙質に比べ低いことが知られている.その原因として,う蝕象牙質の形態学的構造,生化学的性状および機械的性状が,健全象牙質とは著しく異なっていることなどが挙げられている.また,被着象牙質表面を覆っているスミヤー層の性状も接着性能に影響を及ぼす可能性がある.象牙質切削時に表面に形成されるスミヤー層は,被切削体と構成成分は同じであると考えられている.したがって,う蝕象牙質削面に形成されるスミヤー層は,健全象牙質のスミヤー層と比べて有機成分の割合が多いと思われる.本研究では,う蝕象牙質内層(う蝕罹患(影響)象牙質:caries-affected dentin)へのレジンの接着性能の改良を目指して,スミヤー層の構造がう蝕象牙質と健全象牙質とで異なることに着目し,スミヤー層表面の有機成分を溶解・除去することができる次亜塩素酸ナトリウム水溶液による前処理が,う蝕罹患象牙質への2ステップ・セルフエッチ接着システム(クリアフィルメガボンドFA®,クラレメディカル)の接着強さに及ぼす影響について検討した.その結果,次亜塩素酸ナトリウム水溶液30秒処理後,還元効果のある芳香族スルフィン酸塩を主成分としたアクセル®(サンメディカル)にて30秒間処理することにより,う蝕罹患象牙質に対するクリアフィルメガボンドFA®の接着強さを,無処理-健全象牙質に対する接着強さと同程度に改善させることができた.また,健全象牙質を次亜塩素酸ナトリウム水溶液30秒処理後,アクセル®にて30秒間処理した場合と無処理-健全象牙質に対する接着強さの間に有意差は認められなかった.健全象牙質とう蝕罹患象牙質におけるスミヤー層の性状の違いが,2ステップ・セルフエッチ接着システムのう蝕罹患象牙質に対する接着強さの低下の大きな要因である可能性が示唆された.