著者
山田 嘉重 木村 裕一 高橋 昌宏 車田 文雄 菊井 徹哉 橋本 昌典 大木 英俊
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.237-247, 2021 (Released:2021-06-30)
参考文献数
55

目的 : SARS-CoV-2感染予防は, COVID-19流行を阻止するために非常に重要である. そのため, 手指の消毒と個人防護器具 (PPE) の装着に加えて新たな予防対策を講じる必要性がある. その予防策の候補の一つとして, エピガロカテキンガレート (EGCG) を代表とするカテキンの使用が挙げられる. 分子ドッキング法により, 選択的にSARS-CoV-2スパイクタンパク質とEGCGが結合することで, スパイクタンパク質とACE2受容体との結合を抑制する可能性が報告されている. 本研究では, SARS-CoV-2スパイクタンパク質に対してEGCG単独, 4種混合カテキンおよび緑茶が実際にスパイクタンパク質とACE2との結合抑制に効果を有するのかを調べることを目的とした. 材料と方法 : 本研究では, 異なる状態のカテキン (EGCG, 4種混合カテキン, 粉末緑茶) を使用した. 溶液の濃度はEGCG溶液 (EGCG) と4種混合カテキン溶液 (4KC) で1, 10, 100mg/ml, 2種類の緑茶溶液Ⅰ (PWA) と緑茶溶液Ⅱ (PWB) では1, 10mg/mlとした. SARS-CoV-2スパイクタンパク質抑制スクリーニングキットを使用し, TMB基質で発色後の撮影とELISAによる検討を行った. 結果および考察 : 各種抑制溶液において100mg/mlの濃度が最もSARS-CoV-2スパイクタンパク質とACE2との結合抑制効果が強く, 濃度の減少に比例して抑制効果が減少するのが観察された. それぞれの結合抑制率の割合は, EGCGでは12~89%, 4KCは11~88%, PWAでは10~47%, PWBでは11~47%であった. 本研究結果において, EGCGだけでなく4KCやPWA, PWBでもスパイクタンパク質とACE2との結合抑制効果を有することおよび, その結合はカテキンの濃度に依存することが判明した. 結論 : 本研究によりEGCG単独だけではなく, 4種カテキン混合状態および粉末緑茶溶液においてもSARS-CoV-2スパイクタンパク質とACE2との結合に対して濃度依存的に抑制効果を有することが確認された. カテキン配合溶液は, SARS-CoV-2感染に対する新たな予防法の一つとなることが期待される.
著者
中嶋 省志 SADR Alireza 田上 順次
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.111-120, 2014 (Released:2014-05-07)
参考文献数
24

過去, エナメル質の溶解現象を説明するうえで臨界pHという考え方が強調され, そのためpHにのみに多くの関心が払われてきた. しかし, この溶解現象がpHにだけ依存するものではないことは, 以前から知られている. 本稿ではまず臨界pHについて, 過去の文献を引用してその歴史を簡単に振り返る. そのなかで, 臨界pHはエナメル質に固有の特性ではなく, 酸性液に含まれるCa2+とリン酸イオンの濃度に依存して決定され, 「一定の値をとらないこと」を述べる. この考え方は, すでに1950年代にみられる. この臨界pHが今日話題となっている酸蝕とも関連することから, そのことについても言及する. 一方, 臨界pHを決定する要因には, 前述のCa2+とリン酸イオンの濃度以外にも, エナメル質の熱力学的溶解度 (酸溶解性の指標) がある. この指標の程度はエナメル質によってかなり異なり, この違いが臨界pHに大きな影響を与えることを解説する. 具体的には, 飽和度という概念を基に臨界pHに及ぼすCa2+とリン酸イオンの濃度の影響を計算し, 臨界pHの値を推定した. すなわち, プラーク液にて検出される平均的なCa2+とリン酸イオン濃度を用い, そこで酸が産生されpHが低下したとして, 臨界pHを計算した. その結果, この場合の臨界pHは5.15であった. 同様にエナメル質の酸溶解性の違いから, 最も溶けにくいエナメル質の場合の臨界pHは5.02, 最も溶けやすい場合は5.81となり, 大きな違いが認められた.
著者
菅野 直之 藤井 健志 川本 亜紀 望月 小枝加 伊藤 聖 吉沼 直人
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.385-389, 2013-08-31 (Released:2017-04-28)

目的:歯周病は歯周病細菌により引き起こされる炎症性疾患であり,発症により唾液中の酸化ストレスマーカーが上昇,治療により減少することから,活性酸素が関与する疾患の一つと考えられている.本研究では,軽度から中等度の歯周病を有するボランティアを対象に,ユビキノール(還元型コエンザイムQ10)の摂取が歯周組織の臨床症状,口臭,唾液の抗酸化能に及ぼす効果を検討することを目的とした.材料と方法:被験者を2群に割り付け,実験群には還元型コエンザイムQ10(50mg)を含むサプリメントを,対照群にはプラセボを毎食後摂取させ,4,8週後に口腔内診査,口臭検査および唾液の採取を行った.成績:投与前後での臨床症状では,実験群でプラークの付着程度およびプロービング時の出血点の割合,対照群でプロービング時の出血点の割合に有意な低下が認められた.抗酸化能は,実験群ではやや増加したが,対照群では有意な低下がみられた.口臭の評価では,実験群で低下する傾向がみられた.結論:本結果から,還元型コエンザイムQ10の服用は歯周病による口腔内の症状改善に有用である可能性が示唆された.
著者
日下部 修介 田村 大輔 小竹 宏朋 作 誠太郎 本間 文将 村松 泰徳 堀田 正人
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.353-359, 2013-08-31 (Released:2017-04-28)

目的:本研究の目的は,口腔ケアに用いる至適カテキン粉末緑茶濃度,口腔内細菌に対する抗菌性,およびカテキンの口腔内細菌に及ぼす影響について検討することである.材料と方法:本実験では,供試したカテキンとしてカテキン粉末緑茶(以下,カテキン),供試細菌としてStreptococcus mutans, Streptococcus sanguinisを用いた.抗菌性試験においては,カテキン濃度を1.9, 1.0, 0.75, 0.5, 0.25g/lとなるようTSBY培地に混和して平面培地を作製し,これらに菌液を摂取し,嫌気条件下にて37℃,48時間培養し,最小発育阻止濃度を判定した.また,カテキンの口腔内細菌に及ぼす影響についてSEMおよびTEM(ネガティブ染色)を用いて,S. mutans, S. sanguinisの菌液を1.9g/lに調整したカテキン溶液に滴下後1時間および3時間の細菌の状態を観察した.結果:抗菌性試験として,1.9g/lのカテキン含有TSBY培地に細菌発育が認められなかった.カテキンのS. mutansに対するMICは1.9g/l, S. sanguinisは0.25g/lであった.SEMによる観察では,カテキンを作用したS. mutansおよびS. sanguinisは,1時間および3時間作用後における菌数が少なく,残存している菌体の形態変化が認められる傾向にあった.TEM観察においても,カテキンを作用させた細菌の形態変化が観察された.結論:以上のことから,カテキン粉末緑茶は口腔内細菌に対して抗菌効果を有し,口腔ケアとそれに伴う局所的および全身的疾患の予防に有益であることが示唆された.
著者
富田 文仁 庭野 和明 子田 晃一 興地 隆史
出版者
特定非営利活動法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.608-614, 2007-10-31
参考文献数
24
被引用文献数
1

エンジン用ニッケルチタンファイルの適切な操作は,ファイル破折や根管の移動などの偶発事故回避の観点からきわめて重要である.そこで本研究では,熟練者と初心者がProTaperを用いて規格湾曲根管模型を形成した際の模型への力学的作用を解析することにより,術者の操作習熟度の相違を反映するパラメーターを検索した.すなわち,70個のエポキシレジン製透明湾曲根管模型を2群(A・B群)に分け,事前に1名の術者がA群ではProTaper SX(根管中央部まで),B群ではF2(作業長まで)まで製造者指定の手順で根管形成を行った.次いで,2名の熟練者と5名の初心者が,A・B群の模型(各n=5)をそれぞれS1,F3で作業長まで根管形成を行い,その際に模型に加わる切削器兵長軸方向への垂直荷重およびそれを回転中心としたトルクを根管拡大形成操作解析装置にてリアルタイムで計測した.その後,形成中の荷重・時間積,トルク・時間積,作業時間を求めるとともに,垂直荷重およびトルクが最大値となる時間差(タイムラグ)を解析した.その結果,荷重・時間値,トルク・時間積,作業時間はいずれも熟練者が小さい値となる傾向が示されたが,初心者では術者間の相違が著しく,初心者と熟練者間の有意差は必ずしもみられなかった(一元配置分散分析およびBonferroni Dunn検定).また,熟練者では垂直荷重が最大値を示した後に最大トルクが現れ,最大トルクに先立って引き上げ操作が始まるという,おおむね一定のリズムで形成が行われたが,初心者では形成に一定のリズムがみられない場合や最大トルク出現後も荷重が加え続けられた場合がしばしば認められた.熟練者2名のタイムラグをA・B群間で比較したところ,いずれも,A群よりB群が有意に大きい値であった(p<0.01,対応のないt検定).以上より,熟練者ではファイルへの荷重に応じた引き上げのタイミングが適切かつリズミカルにコントロールされていること,および,最大垂直荷重と最大トルクのタイムラグの解析が習熟度の指標となりうることが示唆された.また,熟練者においても,F3使用時にはトルク開放の遅れによるファイル破折に注意が必要と思われた.
著者
中村 俊美 織田 洋武 佐藤 聡
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.570-578, 2010-12-31 (Released:2018-03-28)
参考文献数
35

微酸性電解水は2〜6%の塩酸を電気分解することにより生成され,pH5.0〜6.5,酸化還元電位800〜1,100mV,遊離塩素濃度10〜30ppmを示す.微酸性電解水は強酸性電解水と同様強力な殺菌力を有し,環境汚染も少なく,医療分野での応用が期待されている.本研究は,口腔内病原細菌に対する殺菌効果,ならびに口腔内細胞への影響についてin vitroにて検証した.殺菌試験については,材料として,Streptococcus mutans(ATCC25175),Aggregatibacter actinomycetemcomitans(ATCC29522),Porphyromonas gingivalis(W83,ATCC33277),Prevotella intermedia(ATCC25611)の5菌種を使用した.各種細菌を洗浄後,滅菌蒸留水にて倍々希釈した微酸性電解水(0,6.25,12.5,25.0,50.0,100w/w%)にて1分間処理した.その後希釈し,寒天培地に塗抹後,A.actinomycetemcomitans,S.mutansは48時間,P.gingivalis,P.intermediaは72時間培養を行い,評価はColony Forming Units(CFU)で行った.細胞毒性試験については,材料としてヒト歯肉線維芽細胞とヒト皮膚線維芽細胞を用いた.細胞を培養後,滅菌蒸留水にて希釈した微酸性電解水(0,12.5,25.0,50.0,100w/w%)を30秒,1,2,4分間それぞれ作用させた.その後8日間の細胞増殖の変化を測定した.また,歯肉線維芽細胞と皮膚線維芽細胞に対し,微酸性電解水を0〜80w/w%に調製した培養液にて培養し,検討を行った.その結果,微酸性電解水は,S.mutans(ATCC25175),A.actinomycetemcomitans(ATCC29522),P.gingivalis(W83,ATCC33277),P.intermedia(ATCC25611)の5菌種に対して1分間の作用で完全な殺菌効果を示し,その効果は25%希釈溶液までみられた.さらに微酸性電解水原液では,歯肉線維芽細胞の細胞増殖に抑制作用を示した.この作用は希釈により低下し,50%希釈溶液では,抑制作用は認められなかった.以上の結果から,微酸性電解水は宿主細胞に影響しない濃度下で口腔内細菌に対して強い殺菌作用を示すことが認められた.
著者
菅野 直之 藤井 健志 川本 亜紀 望月 小枝加 伊藤 聖 吉沼 直人
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.385-389, 2013

目的:歯周病は歯周病細菌により引き起こされる炎症性疾患であり,発症により唾液中の酸化ストレスマーカーが上昇,治療により減少することから,活性酸素が関与する疾患の一つと考えられている.本研究では,軽度から中等度の歯周病を有するボランティアを対象に,ユビキノール(還元型コエンザイムQ10)の摂取が歯周組織の臨床症状,口臭,唾液の抗酸化能に及ぼす効果を検討することを目的とした.材料と方法:被験者を2群に割り付け,実験群には還元型コエンザイムQ10(50mg)を含むサプリメントを,対照群にはプラセボを毎食後摂取させ,4,8週後に口腔内診査,口臭検査および唾液の採取を行った.成績:投与前後での臨床症状では,実験群でプラークの付着程度およびプロービング時の出血点の割合,対照群でプロービング時の出血点の割合に有意な低下が認められた.抗酸化能は,実験群ではやや増加したが,対照群では有意な低下がみられた.口臭の評価では,実験群で低下する傾向がみられた.結論:本結果から,還元型コエンザイムQ10の服用は歯周病による口腔内の症状改善に有用である可能性が示唆された.
著者
久保田 健彦 冨田 尊志 濃野 要 阿部 大輔 清水 太郎 杉田 典子 金子 昇 根津 新 川島 昭浩 坪井 洋 佐々木 一 吉江 弘正
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.109-116, 2015 (Released:2015-05-07)
参考文献数
28

目的 : 超高齢社会の現代において, 咀嚼・会話・審美に不可欠な歯を喪失する最大の原因となっている歯周病を防ぎ健康増進を図ることは, 歯周病が糖尿病や直接死因につながる循環器・脳・呼吸器疾患などと密接に関係することからも国民にとって急務である. 本研究は, 抗炎症効果を有するホエイペプチド (WHP) 配合流動食摂取が臨床的歯周組織検査項目, 唾液および歯肉溝滲出液 (GCF) 中の生化学的マーカー・炎症性サイトカインレベルに及ぼす影響について調べたものである.  材料と方法 : 本研究は新潟大学倫理審査委員会の承認を得て, 新潟大学医歯学総合病院にて実施した. インフォームドコンセントが得られた36名の慢性歯周炎患者 (男性24名, 女性12名, 66.8±11.7歳) を対象とし, WHP摂取群 (n=18), Control群として汎用流動食 (Control) 摂取群 (n=18) に無作為に振り分けた. 実施方法は評価者盲検法とし, 摂取前と摂取4週間後に臨床検査としてPlaque Control Record (PCR), Gingival Index (GI), Probing Pocket Depth (PPD), Bleeding on Probing (BOP), Clinical Attachment Level (CAL) の測定, さらに生化学的検査として最深歯周ポケット部位よりGCFを採取し, 炎症性サイトカイン (TNF-α, IL-6) 量, Alanine Transaminase (ALT) 量, Asparate Transaminase (AST) 量, 唾液中遊離ヘモグロビン (f-Hb) 量を測定した. 群間比較にはMann-WhitneyのU検定, 群内比較にはWilcoxonの符号付き順位検定, 相関分析はPearsonの積率相関分析を用い, 有意水準は5%に設定した.  結果 : GCF中の生化学的パラメーターでは, TNF-α, IL-6はWHP群においてのみ有意に減少した. Control群では有意差は認められなかった. ALT, ASTは両群ともに有意差は認められなかった. 臨床パラメーターは両群ともにPCR, GI, BOPにおいて改善傾向が認められた. PCRの低下したControl群でのみ, 有意にGI, BOPが減少した. PPD, CALは両群ともに有意な変化はなかった. 唾液中のf-Hb量は両群ともに有意差は認められなかった.  結論 : WHP群, Control群ともに, 4週間の摂取により歯周病臨床パラメーターが改善されることが示された. 特に, GCF中のTNF-α, IL-6がWHP群でのみ有意に減少したことより, WHPに含まれるホエイペプチドがGCF局所での炎症性サイトカインレベルに影響を与えた可能性が示された.
著者
仲西 宏介 鈴木 奈央 米田 雅裕 山田 潤一 廣藤 卓雄
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.293-300, 2014 (Released:2014-09-01)
参考文献数
20

目的: 口臭の主成分である揮発性硫黄化合物は, 口腔内に棲息する嫌気性菌が歯垢や舌苔などに含まれる含硫アミノ酸を分解することによって発生する. 本研究では, 口臭除去を効能・効果とする口腔咽喉薬に注目し, それらの摂取が口臭および口腔内環境に与える影響について, 臨床的に客観評価することを目的とした.  材料と方法: セチルピリジニウム塩化物水和物 (CPC), グリチルリチン酸二カリウム, キキョウエキスの3種の有効成分を配合したトローチ剤 (ローズウィンド, シオノギ製薬), CPCのみを配合したトローチ剤 (プロテクトドロップ, 常盤薬品工業), 有効成分を配合しない清涼菓子 (フリスク, クラシエホールディングス), 水による洗口について比較検討した. インフォームドコンセントが得られた大学生ボランティア82名 (男58名, 女24名, 平均年齢25.2±2.2歳) に対し, 非盲検ランダム化比較試験を実施した. 被験者を無作為にローズウィンド, プロテクトドロップ, フリスク, 水による洗口のいずれかに割り当て, 摂取あるいは洗口前後に, 口臭レベル, 刺激唾液量, 唾液pH, 唾液緩衝能, 舌の保湿度を測定した. 口臭測定前にメチオニン水溶液で洗口し, 誘発した揮発性硫黄化合物の濃度が1.9 log ppb (80 ppb) 以上の場合を解析対象とした.  結果: 解析対象者の条件を満たした被験者は57名 (ローズウィンド群15名, プロテクトドロップ群14名, フリスク群14名, 水洗口群14名) であった. トローチ剤および清涼菓子はいずれも優れた口臭抑制効果を示し, 摂取前後に統計学的有意差がみられた. 特にトローチ剤では, 口臭がないとみなすレベルまで改善が認められた. 唾液検査の結果は, ローズウィンドで唾液pHが, プロテクトドロップで唾液緩衝能が, フリスクで刺激唾液量が, 摂取により有意に増加した. 舌の保湿度については, 統計学的有意差はなかったが, ローズウィンドのみ摂取後に増加した.  結論: 今回検討したトローチ剤は, 優れた口臭抑制効果を示した. また, トローチ剤および清涼菓子の摂取は, 口腔の機能を活性化することが示唆された.
著者
川本 諒 五條堀 眞由美 柴崎 翔 松吉 佐季 鈴木 総史 平井 一孝 植田 浩章 金澤 智恵 高見澤 俊樹 宮崎 真至
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5, pp.402-409, 2016 (Released:2016-10-31)
参考文献数
24

目的 : 歯科疾患の予防という概念の普及に伴って, 機械的歯面清掃 (PMTC) を行う機会が増加している. その際に用いられるPMTCペーストは, さまざまな製品が市販されているものの, プラーク除去効果あるいは歯質に対する影響については不明な点が多い. そこで, PMTCペーストの使用がエナメル質および歯冠修復物の表面性状とプラーク除去効果に及ぼす影響について検討した. 材料と方法 : 疑似エナメル質としてステンレス板 (SUS304), コンポジットレジン試片としてFiltek Supreme Ultra (3M ESPE), 金銀パラジウム合金試片としてキャストウェルM. C. 金12% (ジーシー) を用い, それぞれ通法に従って10×10×1mmの平板に調整したものをPMTC用試片とした. これらの試片に対し, 等速コントラアングルに歯面清掃ブラシを装着し, PMTCペースト0.1gを用い, 回転数2,000rpm, 荷重250 gfの条件で, 15秒間PMTCを行った. なお, 供試したPMTCペーストは, クリンプロクリーニングペーストPMTC用 (CP, 3M ESPE), コンクールクリーニングジェル (CJ, ウェルテック), メルサージュレギュラー (MR, 松風), メルサージュファイン (MF, 松風) およびメルサージュプラス (MP, 松風) の合計5製品とした. PMTC終了後の試片について, その表面をレーザー走査顕微鏡を用いて観察するとともに付属のソフトウェアによって表面粗さRa (μm) を求めた. また, 表面に塗布した人工プラークの残存面積 (mm2) を計測することによって, 人工プラーク除去率を算出した. 成績 : PMTC後のステンレス, コンポジットレジンおよび金銀パラジウム合金試片の表面粗さは, 用いたPMTCペーストによって異なる傾向を示した. 特に, CJ, MRおよびMFはBaselineと比較してPMTC後の表面粗さが増加し, MRはほかの製品と比較して有意に高いRa値を示した. 一方, CPにおいては, コンポジットレジンおよび金銀パラジウム合金でPMTC後の表面粗さが増加したが, ステンレス板においては変化が認められなかった. また, プラーク除去率についても使用した製品によって異なる傾向を示した. 結論 : エナメル質, コンポジットレジンおよび金銀パラジウム合金のPMTC後の表面粗さの変化ならびにプラーク除去率は, 用いたPMTCペーストによって異なるものであり, 配合されている研磨粒子の成分や粒径によるものであったことが示された.
著者
中村 裕子 橋本 研 小此木 雄 牛込 瑛子 橋島 弓子 高橋 哲哉 小林 健二 小谷 依子 鈴木 玲爾 坂上 宏 申 基哲
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.331-340, 2011-10-31 (Released:2018-03-23)
参考文献数
27

本研究の目的は,次亜塩素酸電解機能水(Hypochlorous-acid Electrolyzed Water: HEW)による宿主細胞への傷害性と,アルカリホスファターゼ(ALP)活性に与える影響を検討することである.HEWは,炭酸と塩化ナトリウム(NaCl)溶液を電気分解することによって生成される中性(pH7.2)で有効塩素濃度650ppmを有する電解水である.その殺菌効果は,陰イオンの活性酸素とHClOによるものと考えられている.HEWとNaOCl溶液のヒト歯髄線維芽細胞(HPC),ヒト歯根膜線維芽細胞(HPDL),ヒト末梢血好中球(PMN)およびヒト皮膚線維芽細胞三次元培養モデルに対する傷害性について,MTT assayを用いて検討した.HPC, HPDLおよびPMNを細胞培養用シャーレにて培養し,各濃度に調整したHEW, NaOCl溶液で処理した.HEWとNaOCl溶液は,濃度と作用時間に依存して細胞傷害性を示した.HEWの細胞傷害性はNaOCl溶液よりも低かった.次にHEWおよびNaOCl溶液のHPCのALP活性へ与える影響を,ALP assay kitを用いて検討した.HEWおよびNaOCl処理は,いずれも,HPC細胞のALP活性を低下したが,HEWのほうがはるかに軽微であった.三次元培養モデルにおいては,HEWの細胞傷害性はほとんど観察されず,NaOCl溶液のみが傷害性を示した.本研究は,HEWによる細胞傷害性は,NaOClよりも低く,根管洗浄剤として使用できる可能性を示唆する.
著者
大森 明 川崎 孝一
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.266-276, 2007-04-30 (Released:2018-03-31)
参考文献数
34

本研究の目的は,多根歯分岐根を有する歯において根管の拡大形成後,根管充填が施されなかったことにより生じた根管内死腔の根管ならびに周囲組織にみられる長期経過後の変化を主に病理組織学的に調べることである.材料は推定年齢6歳以上のカニクイザル成猿雄1頭の永久歯で,上下顎小・大臼歯20歯24根管を用いた.全身麻酔下で被験歯の歯肉に2%Xylocain®(フジサワ)の浸潤麻酔を施し,ラバーダム防湿下で抜髄処置を行った.根管長の測定は,術前のX線写真を参考にしてエンドドンティックメーターS(小貫)を用いる電気的根管長測定で行った.根管の抜髄後の拡大形成は手用リーマーとKファイルを用い,根管拡大は#20〜#35の大きさまで適宜行った.根管の拡大形成後,大半の根管は根尖外組織に#10〜#15のリーマーやKファイルを1mmほど押し出すオーバーインスツルメンテーションがなされた.根管は適宜6% NaOClと3% H2O2で交互洗浄し,最後に滅菌生理食塩液で洗った.ブローチ綿栓で根管を清拭乾燥し,根管口部に無貼薬の滅菌小綿球の包摂,リン酸亜鉛セメントで裏層,接着陸コンポジットレジンのClearfil Posterior®(クラレ)を窩洞に填塞した.術後1.5,9,11〜27,屠殺の31カ月特にX線写真撮影を行い,X線的経過を観察した.10%ホルマリン灌流固定を行い,20%ギ酸脱灰,8μmのパラフィン連続切片を作製し,H-E染色とグラム細菌染色を施し,光顕的に観察した.結果は,以下のとおりである.1. X線的には根管内死腔を有する根尖周囲と根分岐部側には1.5カ月例ですでに大きなび漫性X縁透過像が認められた.根尖病変は経時的に多数の歯に現れた.2. 根管内死腔には多くの例で根尖孔から根管内への肉芽組織の侵人増殖がみられたが,数歯において根管口付近や髄室内にまで達していた.3. 肉芽組織は先端部から変性壊死に陥る傾向が強くみられた.息肉先端の壊死部に接する生活組織に限局して,好中球を含む炎症性細胞浸潤がみられた.一方,壊死組織内には細菌がしばしば観察されたが,多くはレジン充填窩洞の辺縁漏洩による唾液の細菌感染が原因するものと推察された.4. 根管内の炎症性肉芽組織の増殖が関係したと思われる歯根の内部吸収が多くみられ,高度に進行すると根分岐部側に穿孔していた.その象牙質吸収部には稀薄な骨様組織の添加もみられた.5. 根尖歯周組織には,多くの例で歯根肉芽腫や慢性歯槽膿瘍が成立していた.6. 根管内の無菌性が維持された1歯には,肉芽組織の線維化や石灰化組織による根管の狭窄・閉塞化を示し根尖歯周組織に炎症がみられなかった.しかしながら,根管内死腔を放置すれば発炎性の刺激源となり,その影響は長期にわたり拡大波及していくものと思われる.
著者
三宅 香 熊田 秀文 二瓶 智太郎 大橋 桂 清水 統太 好野 則夫 浜田 信城 寺中 敏夫
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.461-467, 2013-10-31 (Released:2017-04-28)

目的:超高齢社会への進展に伴い,高齢者の口腔粘膜疾患の予防および治療法が重要視されている.そのなかでも高齢者に増加傾向のある口腔カンジダ症は,基礎疾患や免疫不全の患者における誤嚥性肺炎の誘発率が高く,直接死につながる疾患として歯科領域の急務の対策課題である.そこでわれわれは,義歯などの技工物表面に発症するカンジダ症を含む口腔感染症の予防および治療対策として,材料表面への抗菌性の付与を目的とした第4級アンモニウム塩の構造を有する新規の抗菌性シランカップリング剤N-allyl-N-decyl-N-methyl-N-trimethoxysilylpropylammonium iodide(10-I)を開発した.本研究では,口腔常在微生物のカンジダ菌,歯周病原細菌および齲蝕病原細菌を含む8菌株を供試し,10-Iの最小発育阻止濃度(MIC)測定および10-I塗布材料表面の接触型抗菌活性を測定して,その有用性を評価した.材料と方法:BHI-yeast寒天培地および血液寒天培地に10-Iの濃度が100,200,400,600ppmおよび800ppmになるよう加え,各供試菌懸濁液10μlを播種し,好気性菌は37℃,24時間,嫌気性菌は37℃,72時間培養し,コロニー発育が観察されなかった培地の最小化合物濃度をMIC値とした.次いで1.1×104,1.1×105,6.2×107CFU/mlに調製したCandida albicansを4ml,10-Iで表面改質したガラス板を1枚ずつ加え,一定振盪下で37℃,24時間好気的に培養した.培養後,各ウェルの生菌数を計測し,対照ウェルの菌数と実験ウェルの菌数の割合を比較して減少率を求め,抗菌活性とした.結果:MIC測定では,Actinomyces viscosus, Fusobacterium nucleatum, Lactobacillus casei, Porphyromonas gingivalisおよびPrevotella intermediaの5菌株に対してはおのおの200ppm,一方,C. albicans, Staphylococcus aureusおよびStreptococcus mutansは400ppmであった.また,C. albicansに対する10-I処理面の接触型抗菌活性測定では,10-I処理面の生菌数の減少率は1.1×104CFU/mlでは92.5%であり,明らかな減少傾向が認められた.結論:以上の結果より,10-Iは供試したすべての口腔細菌およびカンジダ菌に対して抗菌活性を示したことから,10-Iによる表面処理は,高齢者や免疫機能低下者などにみられる口腔固有の菌が起因となる歯科疾患のみならず,誤嚥性肺炎などの全身疾患の併発の抑制,あるいは予防につながると考えられ,有効な手段であることが示唆された.
著者
韓 臨麟 福島 正義
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.228-235, 2016 (Released:2016-05-06)
参考文献数
36

緒言 : わが国におけるフッ化物配合歯磨剤の普及率が9割に達している現在, フッ化物の効果をより確実なものにするための研究が進められている. 最近では, 機能化されたリン酸三カルシウム (fTCP) とフッ化物を配合した歯磨剤が販売されている. 本研究は, この歯磨剤の機能的効果を解明するため, 歯質耐酸性, 象牙細管の封鎖性および元素の取り込みなどについて検討を行った. 材料および方法 : フッ化物と機能化されたfTCPを同時配合した歯磨剤 : Clinpro toothpaste (3M ESPE, USA, 以下, クリンプロ歯磨剤) を実験に用いた. また, 口腔環境のシミュレーションとして人工唾液を用いた. 実験にはヒト新鮮抜去歯を用いた. クリンプロ歯磨剤を用いて, 抜去歯のエナメル質面に1, 4週あるいは8週間の処理を行った後, 乳酸脱灰液にて脱灰させ, EDTA滴定法による脱灰中のカルシウム含有量を測定した (n=5). また, ヒト抜去歯の歯根試片を用いて人工象牙質知覚過敏症試片を作製し, クリンプロ歯磨剤による1, 4週あるいは8週間 (n=5) の処理をそれぞれ行った. これら試片について, 走査電子顕微鏡で処理面の微細構造的観察を行った. さらに, 各処理期間の試片について, 開口象牙細管の封鎖率を算出した. 一方, 実験方法の2) に準じて, クリンプロ歯磨剤を1, 4週あるいは8週間処理した根面象牙質試片 (各n=3) について波長分散型マイクロアナライザーを用いて, Ca, F, Pの検索を行った. 結果 : クリンプロ歯磨剤未処理の対照試片と比べて, 1週間処理した試片ではCa2+溶出量の減少を示し, また, 4週間あるいは8週間処理し続けた場合, Ca2+溶出値はさらに低下していた. また, クリンプロ歯磨剤処理1, 4週あるいは8週間後の象牙質面試片では, 処理期間が長いほど封鎖された象牙細管の数が増加していた. さらに, クリンプロ歯磨剤処理の象牙質界面部におけるCa, PおよびFの取り込みは, 処理期間の長い試片ほど深く浸透していたことが認められた. 考察 : クリンプロ歯磨剤の処理により, 象牙細管開口径の狭窄化や封鎖などが観察されたことにより, 本剤の象牙質知覚過敏症の抑制効果が期待できるものと考えられる. また, クリンプロ歯磨剤処理後では, エナメル質脱灰量の減少やF, CaあるいはPが硬組織に取り込まれたことから, 歯質強化効果が示唆され, う蝕進行抑制に寄与することが期待される.
著者
平尾 千波 後藤 美樹子 池島 巌 大島 朋子 湯浅 茂平 向後 生郎 亀井 優徳 五味 一博 前田 伸子 新井 高 桃井 保子
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.255-263, 2009-06-30 (Released:2018-03-30)
参考文献数
23

本研究では,古くから飲料・食品として親しまれてきたココアを含有した試験研磨材を試作し,その有用性について,ウシ歯を用いたin vitro試験と臨床試験によって検討した.In vitro試験では,試験研磨材として,純ココア(森永製菓)を蒸留水に縣濁させ,0.2g/mlココア溶液(ココア研磨材)を作製した.比較対照として,0.2g/mlリン酸水素カルシウム水溶液(リン酸水素カルシウム研磨材)と,蒸留水を用意した.ウシ抜去歯を紅茶液に浸漬し,歯面を着色させた.ココア研磨材,リン酸水素カルシウム研磨材,蒸留水の3グループにウシ歯を分類し,各試験研磨材を用いて研磨を行った.研磨は,ウシ歯唇面の被験部位に対し,ポリッシングブラシにて,同一条件下で行った.着色前,着色後,3分間研磨後,6分間研磨後において,被験部位を分光式色彩計にて測色し,CIEL*a*b*で表示した.着色後と3分間研磨後の色調,着色後と6分間研磨後の色調それぞれについて色差(ΔE*ab)を算出し,各試験研磨材の違いについてTukeyの多重比較を行った(α=0.05).さらに,ココア溶液による歯面の着色が生じるか否か検討するため,ココア溶液(4g/100ml)を作製し,別に準備したウシ歯を浸漬した.ココア溶液浸漬前後の色調変化を,紅茶液に浸漬前後の色調変化と比較した.臨床試験では,ココアパウダー含有の試作歯磨剤を使用する被験歯磨剤群と,ココアパウダー不含有の試作歯磨剤を使用するプラセボ群に被験者を分け,1ヵ月間使用した前後の前歯の色調の測定と,プラーク指数(PLI,Silness&Loe法)の判定を同一評価者により行い,二重盲検法により比較検討した.結果は,Mann-Whitney U testで解析した(α=0.05).In vitro試験の結果,ココア研磨材による研磨前後の色差は,蒸留水による研磨前後の色差に対し有意に大きい値を示した.ココア研磨材による研磨前後の色差と,リン酸水素カルシウム研磨材による研磨前後の色差に有意差はなかった.各試験研磨材の研磨前後の色差は,3分間研磨前後,6分間研磨前後の間で大きな変化はみられなかった.また,ココア溶液にウシ歯を浸漬した場合,紅茶とは異なり,ほとんど着色は生じなかった.臨床試験の結果,試験期間前後における歯の明るさの差とプラーク除去効果は,被験歯磨剤群とプラセボ群の間に有意差は認められなかった.以上の結果より,ココアパウダーを含有した試験研磨材は,歯面着色除去効果を有することが示されたが,歯磨剤への臨床応用試験において,今回の試験条件下では有意差を認めるまでにはいたらなかった.
著者
加藤 大輔 小山 隆夫 中野 雅子 新井 高 前田 伸子
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.58-65, 2010-02-28 (Released:2018-03-29)
参考文献数
49
被引用文献数
1

根管治療は根管の複雑性や治療の困難さから,しばしば失敗することがある.治療成績向上のためには,根管消毒剤の使用が不可欠とされている.しかしながら,根管内に残存する微生物に対するこれらの消毒剤の抗菌性の有効性は確認されていない.そこで,本研究ではin vitro根管モデルを使用して,難治性根尖性歯周炎の歯に残存することが知られている微生物に対する根管消毒剤の抗菌性の有効性を調べた.被験微生物は,Enterococcus faecalis,Candida albicans,Pseudomonas aeruginosa,Staphylococcus aureusを用いた.また,根管消毒剤にはホルムクレゾール(FC),カンフル・カルボール(CC),水酸化カルシウム(Ca(OH)2),ヨードチンキ(J),メトロニダゾール,ミノサイクリンおよびシプロキサシンの3種混合薬剤(3Mix)を使用した.根尖病巣実験モデルは,根管を90号サイズに形成し,病巣部に相当する部位を半球状に形成した.微生物を含んだ病巣部は根尖から離し,生理食塩水寒天で挟み,サンドイッチ様の3層構造とした.それぞれ37℃で1時間,1,3,7日間薬剤を作用させた後,根尖部より無菌的に寒天を採取した.寒天はトリプティックソイ(TS)液体培地にホモジナイズし,適宜希釈してTS寒天培地上で37℃にて好気培養を行い,出現したコロニー数(log cfu/ml)を計測した.その結果,FCが4種の微生物すべてに十分な抗菌性を有し,それ以外の薬剤は,FCに次いで,J,Ca(OH)2の順で抗菌性をもつこと,また,CCはP.aeruginosa以外の3菌種には抗菌性をもっていないこと,3Mixは4種の微生物すべてに十分な抗菌性をもっていないことが示された.この研究から,FCが最も有効であることが示唆された.
著者
森田 十誉子 山崎 洋治 湯之上 志保 細久保 和美 武儀山 みさき 藤井 由希 石井 孝典 高田 康二 冨士谷 盛興 千田 彰
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.255-264, 2012-08-31 (Released:2018-03-15)
参考文献数
34

目的:集団健診における歯周病のスクリーニングには,CPIが通常用いられているが,検査に時間を要し,受診者の負担も大きいことから,簡易な検査法が求められている.本研究では,検査紙を用いた唾液検査と自覚症状を尋ねる質問紙調査との組合せによる歯周病スクリーニング法の有効性を検討した.材料および方法:対象は,某事業所の歯科健診を受診した成人のうち,本試験への参加に同意が得られた468名(平均年齢36.6歳,男性362名,女性106名)とした.唾液検査に用いた試料は,蒸留水で軽く洗口した後の吐出液とし,検査指標はヘモグロビン,タンパク質,白血球および濁度とした.ヘモグロビン,タンパク質および白血球は,検査紙を用いて専用反射率計により測定し,濁度は660nmの吸光度により求めた.質問紙調査項目としては,自覚症状(12項目),喫煙習慣および年齢とした.歯周病の臨床検査はCPI測定により行い,歯周ポケットの有無により分類し評価した.各唾液検査指標については,t検定により歯周ポケット有無との関連性を検討し,さらに,ROC曲線から感度,特異度を算出して検出感度(感度+特異度)の高い唾液検査指標を検討した.自覚症状の項目については,χ2検定により歯周ポケット有無と関連がある項目を検討した.さらに,唾液検査と質問紙調査を組合せたときの感度および特異度を算出することにより,最適な組合せを検索した.結果:1.唾液検査指標のヘモグロビン,タンパク質,白血球および濁度のいずれにも歯周ポケット有無と有意な関連性が認められ,ヘモグロビンが最も高い検出感度を示した.2.自覚症状12項目のうち,「歯をみがくと歯ぐきから血がでることがある」「歯ぐきが赤っぽい,または黒っぽい」「歯と歯の間に食べものがはさまりやすい」「ぐらぐらする歯がある」「固いものが噛みにくい」の5項目を組合せることにより高い検出感度を認めた.さらに,喫煙習慣,年齢を加えることにより検出感度は高まった.3.唾液検査と質問紙調査の組合せでは,ヘモグロビンが陽性,または,自覚症状5項目,喫煙習慣,年齢の計7項目のうち,4項目以上該当の場合に最も高い検出感度を示した.結論:検査紙を用いた唾液検査と自覚症状を尋ねる質問紙調査の組合せは,産業歯科保健活動の現場で活用できる簡易な歯周病スクリーニング法として有効であることが示唆された.