著者
LENG Ron A.
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.80, no.4, pp.468, 2009-11-25 (Released:2010-05-25)

現在世界は,相互に関係し,作用しうる次の3つの危機に直面している : 気候変動,ピークオイル(安価なエネルギーの終末),そしてグローバルな資源枯渇.バランスの良い食事を心がけることはもちろんのこと,予想される将来の世界の人口に対しての食事を供給するために大きな変革が必要であることは言うまでもない.エネルギーに関連して,食料との関係を理解しなければならない.近代的な農業はエネルギー集約的な産業であり,エネルギー価格の高騰により影響を受けやすい.肥料の主要な原料は天然ガス(窒素肥料生産コストの70-90%)であり,生産資材の中で肥料は最大のエネルギーを使用する.安価な化石燃料により,食料や飼料(穀類がその80%を占める)は安価に生産することができた.しかし,原油は枯渇するに従って価格が上昇し,このような状況は大きく変化する.その結果,人の食料や企業的な畜産のための飼料の入手に大きな混乱を招きかねない.同時に食料や飼料生産のための肥沃な土地は多くの複合した問題のため収量の減少とともになくなりかねない.これらの問題とは : 気候変動による破壊的効果,農業用水の減少,土地の利用性と肥沃土の減少,バイオエタノール生産のための原料作物のための土地利用の拡大.ピークオイルの最悪の影響は気候変動による最悪の影響より早急に生じ,多くの国々における将来の畜産戦略に影響する主要な要因となりうる.畜産革命は,穀類の輸出国において発展したことと同様に,ブタや家禽,そして反芻家畜の生産をさせるために工業国から開発途上国に輸出される世界の余剰な(それ故安価な)穀類に基礎を置いている.しかしながら,もし人口が67億から90-100億に増加するならば,人が必要とする穀類(食料と工業原料)に対して余剰となるものは現在の発展シナリオとは異なるものとなり,家畜生産に利用しうる世界の穀類の量は高度に制限されると予想され,世界中における企業畜産の減少に繋がる.草食動物(主に反芻動物とウサギ)を基盤とする畜産業は,食料やバイオ燃料生産に使用されない幅広い農業副産物やバイオマスを活用することができるため,広範囲な発展が求められる.バイオマスの主要な資源として穀類のわらがある.これらは処理をすることで消化率を向上することができ,適正な栄養の添加により反芻家畜による利用性を高めることができる.人口が集中地に近いところで多様な産物を生産する地域毎に多様化した農業が将来の食料生産にとって最適と思われる.養分や水をリサイクルさせながら作物生産とともに反芻家畜と水産養殖の統合したシステムを開発しなければならない.投入資材と生産物が地元で加工されることが不可欠である.リグニンを多く含む副産物の処理のための省エネ型工場や高タンパク質副産物からバイパスタンパク質の地元での生産がそのような副産物をベースにした反芻家畜による肉生産や乳生産に必須である.作物の残さにより反芻家畜やウサギ,草食魚を飼育する統合システムが将来の動物性タンパク質生産として最も効率が良いと思われる.そのシステムは人口密度に応じて小規模農家あるいは大規模生産に適応させれば良い.反芻家畜の放牧は,農業副産物による家畜生産と同様の技術導入により生産を拡大しうる.また,環境にやさしい放牧管理技術の開発により土地の荒廃を解決しうる上,土壌中有機物として炭素固定を最適化しうる.反芻家畜生産の欠点として温室効果ガスであるメタンの排出がある.飼料の処理や,放牧草や副産物に補助飼料を加えることにより生産性を高めることができ,生産された畜産物あたりメタン産生を低減化できる.加えて,ルーメンにおける消化過程でのメタン産生を制限しうる研究も進められており,将来反芻家畜からのメタン産生を抑制することも可能かもしれない.