著者
MORO Shigeki
出版者
日本印度学仏教学会
雑誌
印度學佛教學研究 (ISSN:00194344)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.1126-1132, 2015-03

雲英晃耀(きら・こうよう,1831-1910)は,幕末から明治時代にかけて活躍した浄土真宗大谷派の僧侶で,キリスト教を批判した『護法総論』(1869)の著者として,また因明の研究者・教育者として知られる.特にその因明学については,『因明入正理論疏方隅録』のような註釈書だけでなく,『因明初歩』『因明大意』などの入門書が知られているが,その内容についてはこれまでほとんど研究されてこなかった.雲英晃耀の因明学については,いくつかの特徴が見られる.一つは実践的,応用的な面である.雲英は国会開設の詔(1881)以来,因明の入門書等を多数出版しているが,そのなかで共和制(反天皇制)批判などの例をあげながら因明を解説している.また,議会や裁判所などで因明が活用できるという信念から因明学協会を設立し,政治家や法曹関係者への普及活動を積極的に行った.もう一つは,西洋の論理学(当時はJ. S. ミルの『論理学体系』)をふまえた因明の再解釈である.雲英は,演繹法・帰納法と因明とを比較しながら,西洋論理学には悟他がないこと,演繹法・帰納法は因明の一部にすぎないことなどを論じ,西洋論理学に比して因明がいかに勝れているかを繰り返し主張していた.そして,三段論法に合わせる形で三支作法の順序を変えるなどの提案(新々因明)を行った.この提案は西洋論理学の研究者である大西祝や,弟子の村上専精から批判されることになる.雲英による因明の普及は失敗したものの,因明を仏教から独立させようとした点,演繹法・帰納法との比較など,後の因明学・仏教論理学研究に大きな影響を与える部分もあったと考えられる.