著者
Masahiro SHINOHARA
出版者
中央大学経済研究所
雑誌
経済研究所 Discussion Paper = IERCU Discussion Paper
巻号頁・発行日
vol.338, 2021-01-09

ニュージーランドの付加価値税であるGST(Goods and Services Tax:財・サービス税)は、単⼀税率(2010 年10 ⽉以降15%)で課税ベースが広く、経済活動に対して中⽴的な税制として国際的に⾼く評価されている。本稿の課題は、ロジャーノミクス(Rogernomics)における税制改⾰に注⽬し、GST 導⼊の背景を明らかにすることである。そのために、①税制改⾰前の租税構造の推移および国際的視点からの特徴、②税制改⾰の背景にある当時の経済状況および改⾰前の税制の問題点、③労働党政権での税制改⾰の意義および改⾰の概要、④消費課税改⾰に関する諸議論に注⽬し、論点を整理する。 1980 年代の労働党政権下における税制改⾰を論じたわが国の先⾏研究として、⼤浦(1995)、松岡(1999a;1999b)、渡辺(2011)がある。⼤浦(1995)は、税制改⾰に限定せず、労働党政権の⾏財政改⾰に焦点を当て論じている。また、松岡(1999a;1999b)は、税制改⾰の意義、内容、問題点を探っている。渡辺(2011)は、GST 導⼊から2010 年税制改⾰に⾄るまで、GST の変遷を概観している。いずれにおいてもGST が取り上げられているが、本稿ではGST 導⼊の背景の議論に焦点を絞り、これらの先⾏研究よりも詳細に論ずる。 GST の導⼊は、ロジャーノミクスの経済改⾰の⼀環として実施された税制改⾰の⽬⽟であった。個⼈所得税に依存した税制によって発⽣する不公平や効率性の低下の是正、卸売売上税の抱える問題点の解決、財政⾚字削減といった事柄に対応するために導⼊された。税制改⾰とセットで給付制度の⾒直しも実施されたが、これは単にGST の逆進性を緩和する⼿段としてではなく、低中所得階層の⼦育てを経済⽀援することが⽬的であった。残された課題として、GST の制度設計を巡る議論およびGST 導⼊による経済効果の考察があるが、これらは別稿に委ねる。